「ねえ、フランスさん、夜のオトモって…何するんですか?」
朝は何だかんだと忙しく、結局スウェーデンに尋ねるのを忘れてしまったのだ。 年上で情報レベルも高いフランスなら知っているかもしれないと、そう思って……。 「おやま、いけない子だね〜。どっからそんな言葉覚えてきたんだ?」 棚から取り出した炎熟マンゴーを袋に入れてくれていたフランスは、驚いたように目を瞠った後、面白そうな顔をして調理台の向こうから身を乗り出してきた。 「え〜、どっからっていうか…僕、スーさんの夜のオトモになったんですよ♪」 フィンランドはエヘンと胸を張ると、ちょっと誇らしそうに言う。 「は?」 「だから、しっかり務めを果たしたいなって思って…。でも、どんな事するのか分からないから、フランスさんなら知ってるかな〜って思ったんですけど…」 「おいおいおい…、お前…、あの旦那とどんなコトになってんだ?」 「え?どんなコトって…?スーさんは僕に、ずっと側にいて欲しいって言ってくれましたけど…」 唖然とするフランスそっちのけで、フィンランドは夕べのことを思い出し、ポッと頬を赤く染めた。 嬉しくてどうしてもエヘヘ〜と笑みが浮かんでしまう。 「へ、へぇ〜……あの無口で不愛想な旦那も、言う時ゃ言うってか…」 「スーさん、僕のこと何処にもやるつもりはないって言ってくれたんですよ〜♪」 幸せを絵に描いたような顔とはまさにこの事だろう。 周囲に花を舞い散らしているフィンランドに、フランスは暫く感心したような顔をしていたが…。 「ふ〜ん…、でもお前…簡単に引き受けちゃって良かったのか?」 ニヨニヨ〜と嫌な笑みを浮かべてそう言った。 「え?」
「夜のオトモってなぁ……痛いぞぉ〜〜?」
きょとんとするフィンランドにズイッと顔を寄せ、フランスはボソリと、けれどハッキリキッパリとそう言った。 「えっ?」 「もしかすると、お前、死んじゃうかも」 「えええっっ?!?!?!」 「だってお前、そのナリで、あの旦那が相手だぞ?」 「え……、だ…、ダメ…ですか?」 「いや、ダメってゆーかさ、お前…相当無謀だよ、マジ」 ウンウンなんて、重々しい顔つきで頷きながら…。 フランスの言葉に、フィンランドの顔からサササーッと血の気が引く。
む、無謀だったの? どどど、どうしよう…、死んじゃうかもなんて…! 死んじゃうかもしれないほど痛いって…、よ、夜のオトモって…、そんな危険で怖いことなの?
「で、でもでも、デンマークさんはそんな事全然…」 不安になってオロオロしてしまうフィンランド。 「あ?デンマークの奴が何か言ったのか?」 「うん、スーさんは僕が夜のオトモになったら喜ぶだろうみたいな事を……」 「お前な…、そりゃ冗談っつーか……でも、旦那は喜んだんだろ?」 「ええと…、多分…?僕、眠くて起きてられなかったんだけど……。でも、スーさん笑ってたよ?」 「へぇ…あの旦那も笑うのか……っていやいや、お兄さんちょっと状況が理解不能なんですけど…?」 「ど、どうしましょう〜、フランスさん〜っ!」 話の見えないフランスに、けれど、フィンランドには状況を説明する余裕なんて皆無で…。 「僕、何するのか知らないで夜のオトモするって言っちゃったんですよ〜!痛いの嫌です!恐いですよ〜!」 「え?何、お前がするって言ったの?旦那に言われたんじゃなくて?」 「そうですよぉっっ!どうしよう……今更、夕べのやっぱりなしなんて言えないですよ〜〜!」 真っ青+半泣きのフィンランド。 からかっているフランスですら、ちょっと不憫になる程の怯えっぷり、不安がりっぷりだが、そんな様子がまたこれ以上ない程愛らしい。 もっと苛めてみたらどうなるか…とも思うが、あまり度を過ぎると、スウェーデンが乗り込んでくるかも知れない…なんて思って、フランスはポンポンとその背を叩いてやった。 「あー…いや、まあ、あの旦那の事だから、お前がもちっと大きくなるまでは待ってくれる気なんじゃないの?」 フランスの言葉に、フィンランドはグスッと鼻を啜る。 「……お、大きくなったら…平気なんですか?」 「ん、そりゃあねぇ…。大分楽にはなるだろうな」 「…楽に…?そうなんだ…?」 まだまだお子様なフィンランドには、それがどうしてなのかは分からない。 だから、それならば待って貰おうかな…なんて思うのだが、フランスはそれには意地悪そうな笑みを浮かべて…。 「ん〜…でも、我慢ってのはカラダとココロに良くないからねぇ〜…」 そんなことを言い出す。 「ええっ?!?!?!じゃ、じゃあ、どうしたらいいんですか?」 「さあ、お兄さんもそこまで口出すのはねぇ…。旦那に相談してみたらどうだ?」 「そ、そんなぁ〜!ねえ、夜のオトモって何なんですか?そんな、死んじゃいそうに痛い事、して欲しい物なんですか?」 「して欲しいっつーか、したいっつーか…、ほら、旦那もお兄さんも男の子だからね〜♪」 「僕だって男の子ですよっっ!!!!」 思わず半泣きで叫べば、フランスは悪びれた風もなく「あ、そうか☆」なんてニヨニヨと笑った。 「ま、愛がありゃ平気だって♪」 「何ですかそれ〜っ!意味分かんないですよお〜!」 「ん?そもそも、意味も分からないような事言っちゃったのが悪いんだろ〜?ま、これも勉強だな、フィンランド。大人になる為のお勉強♪」 頑張っておいで☆なんて。 明らかに楽しんでいる顔で。 「ふ、フランスさんの意地悪っ!」 ヨシヨシと頭を撫でるその手を、フィンランドはぺちんと叩いた。 そして、 「どうせ、僕はまだまだ子供ですよっ!もし今夜、僕がホントに死んじゃったら、絶対お化けになってここに来ますからねっ!」 イーッだ!と歯を剥きだして見せると、そのまま店を飛び出してしまう。 「ありゃりゃ、怒っちゃったか〜」 残念そうに呟きながら、それでも楽しそうな笑顔はそのままのフランス。 「まーったく!フィンランドさんを苛めちゃダメっすよ!」 側で拭き掃除をしていたセーシェルが、咎めるような言葉と視線を投げるのにも、ニヨニヨと笑って…。 「だって、フィンランド可愛いんだもんよ〜♪お兄さん、ほっとけないって♪」 「そんなコト言って…、ハンターの旦那さんに尻尾ちょん切られちゃっても知らねーっすよ?」 「あの旦那もからかい甲斐ありそうだよな〜♪一回くらい来ねーかなぁ♪」 なあ?なんて聞いてくるフランスに、セーシェルは深々と溜息を付いた。 「…一回くらいホントにちょん切られた方がいいって気がしてきたっす」 「あれま、酷い事言うな〜、セーちゃん。お兄さん泣いちゃうぞ〜!」 「煩せーです!とっとと仕事に戻れですよ!」 唇を尖らせたセーシェルにそう言われ、フランスはヤレヤレなんて言いながら、仕事に戻ることにした。 開いたままのドアの向こうへチラリと目をやれば、通りを駆けて行くフィンランドの姿が小さく見える。
まあ…、オレ等の成長は主人次第だし…。 あんだけ可愛がられてりゃ、アッという間だろうけどねぇ…。
「どーせなら、時間かかれば面白ぇのにな〜…」 「はい?何か言ったっすか?」 ニヨリと悪い笑みを浮かべて呟けば、それを聞き咎められて。 「いーえ、何でもないですよ〜、お嬢様♪」 フランスはニカッと笑ってみせると、コックコートの袖をまくり、調理場へと向かった。
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