どうしようどうしようどうしよう…。 まさか、夜のオトモがそんなに恐くて危険なことだったなんて…死んじゃうかもな位痛いなんて…、どれだけ痛いの? ってゆーか、ホント、夜のオトモって何するの? 何したらそんなに痛いの? どうしよう、僕、痛いのやだよ…。
家に戻ったものの、フランスに聞いた事で頭が一杯のフィンランドは、何をする気にもなれずに…。 「どうしよう…」 キッチンをウロウロと歩きながら、小さくそう呟けば、 「……フィン、おめぇ…具合悪ぃんでねぇのけ?」 今日は留守番をしているノルウェーが、素振りの手を止めて、フィンランドの顔を覗き込んできた。 「え…あ……、へ、平気だよ…!」 「平気って…真っ青だっぺよ…?」 プルプルと首を振ったフィンランドに、ノルウェーは顔を顰める。 「具合悪ぃんなら、無理しねぇで休んでろ」 「無理って言うか……。あ、あの…、ノルウェーさん、夜のオトモって…何をするか知ってますか?」 「は?」 突然の話題の変化に付いて行けず、ノルウェーは一瞬きょとんとして…けれど、フィンランドのこれ以上ない程真面目な顔と、必至な様子を見れば、ゴホンと軽く咳払いをした。 「いや…、まあ…知ってるけんど…?」 「じゃ、じゃあ、教えて下さいっっ!何をしたら、死んじゃうほど痛いんですか?!?!?!?!」 「はあ?」 「だって、フランスさんがそう言ったんです!夜のオトモはすっごく痛いんだって…。スーさんが相手じゃ、僕死んじゃうかもって…!」 フィンランドの言葉に、ノルウェーはただひたすらポカンとしてしまう。 この白いキッチンアイルーが、スウェーデンにとって特別な存在だということは分かっていたが…、まさか、そんな関係になろうとしていたとは……。 「……おめ、スーの夜のオトモになったのけ?」 「そうなんです!僕が自分で、やるって言っちゃったんですよ!どうしましょう?!どうしたらいいんでしょう?!?!?!」 「んー………」 涙目になって詰め寄るフィンランドに、ノルウェーは顔を顰めて呻くと、やがてフウとため息を付いた。 「ま、だいじだっぺ。そう心配ぇすんな」 「だ、大丈夫って…!心配するなっていわれても、心配しちゃいますよぉ!」 「んー、まあ、最初はそんくれぇ痛ぇかもしんねぇけっど…そんだけでもねぇべし…。それより、おめぇがスーのこと好きなのかどうかのが問題だっぺ」 「え…?僕が?…って、そりゃ勿論、大好きですよ!」 「…んー…それは…主人だからだべ?そうでねぐて…」 「そうじゃなく…?」 きょとんとするフィンランドに、ノルウェーは微かに表情を和らげた。 「んだ、大事なことだべ。よっぐ考えてみろ」 「で、でもでも、夜になったらスーさん戻って来ちゃいますよぉ!そしたら僕…僕……」 「だいじだぁ。スーはおめの事好きだっぺよ。んだが、おめが嫌がることはしねぇべ」 「……あ…」 ぷすりと笑って諭すように言われたその言葉に、何故かドキリと鼓動が跳ねる。 それは、スウェーデンが自分を好きだと言われたからじゃない。 好きだから、嫌がることはしないだろうという方だ。
「フィンランド、おめがちゃーんとスーのこと好きだら、何も心配ぇねぇ。痛ぇのなんてちぃっとだけだ」
「………そうなの?」 「んだ。ちゃーんと好きなのわがったら、スーにそう言え。んだけっど、もう少し大きくなってからでええと思うけっどが…」 そう言って…水を呑んでくるなんて、ノルウェーはキッチンを出ていった。
痛いのは…ちょっとだけ……? 僕が…ちゃんとスーさんのこと好きなら………?
「…僕……ちゃんと…好きだよ……?」 ねえ?と自問して…。 後に残されたフィンランドは、きゅんと痛んだ胸を押さえた。 「………」 ノルウェーは、スウェーデンはフィンランドが好きだから、フィンランドの嫌がることはしないだろうと言った。 それはその通りだろうと、フィンランドも思う。 それに、スウェーデンは優しいから、フィンランドが嫌がったり怖がったりする事は、普通にしないに違いない。 だがフランスは、我慢はココロとカラダに良くないとも言った。 だからなのか…、どうも何かが引っかかるのは…。
僕……、スーさんに何か…我慢…させてるのかな…?
そう思うと、何故か胸がざわついて落ち着かない気分になる。 夜のオトモが何をするのか、結局分からないままだから、何を我慢するのかも分からない。 だが、それでも…死んでしまう程痛いなんて脅かしておきながら、フランスは「やめた方がいい」とは言わなかった。 ノルウェーにしてもだ。 痛いという事は否定しなかったが、それでも、気持ちが大事だと言ったり、大きくなってからでいいと言ったり…まるで推奨するかの様で……。
夜のオトモって…本当に何なんだろ……。 僕は痛いけど…スーさんは痛くない事で…、でも、僕もスーさんをちゃんと好きなら、痛いのはちょっとだけだって…。
「…全然、分かんないや……」 途方に暮れて呟いて、ハーッと溜息を付く。 「…でも…」
全然分かんないけど…夜のオトモは、愛とか好きとかが重要みたい……。 それって……好きなら、死んじゃう位痛いことだって我慢出来るって事なのかな…? だって、好きだから我慢してくれるのなら、その逆だって…あるって事だもんね……?
そう思えば、そうかも知れないと、何だかすごく思って。 「そっか……じゃあ、僕だって…きっと我慢出来るよ!」 だって、スーさんの為だもん!と。 ぎゅうっと拳を握りしめ、よしっと気合いを入れる。 「スーさんのこと、ちゃんと好きだもん!だからきっと、大丈夫…大丈夫……うん、きっと…!」 大丈夫大丈夫と、暗示を掛ける様に何度も繰り返して。 「僕、立派に務めを果たしてみせるよ!」 フィンランドは誰にともなくそう宣言した。
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