白い包み紙の中から現れる金色の飴は、蜂蜜を固めて作ったもの。 それをコロンと口に入れ、ベールヴァルドはティノを見やった。 「ほれ、け?」 「あ…、はい」 ティノは言われるままに包みを開いた。 金色の飴を口に入れれば、ほんのりとした花の香りと、甘い甘い味が広がる。 「おいし…」 「そ?」 美味しいと伝えれば、ベールヴァルドの表情がほんの少し和らいだ気がして…ティノは何だか急に気恥ずかしさを覚えた。
泣き虫だって思われたよね、きっと……。 でも……お姉ちゃん……。
姉のことを思えば、またジワリと涙が滲んでしまって…。 ティノはそれがこぼれ落ちる前に、グシグシと顔を拭う。 「……っ…」 「なぁ?」 「はい」 「なんぼ強ぇオトメだって……、どうもなんねって時は、あんでねぇの?」 「……僕も…そう思ってます…」 そう思っている。 そう思っているが、悔しいものは悔しいのだ。 綺麗で優しくて、強くて格好良かった姉…。 ティノの憧れでもあった姉を悪く言われて、悔しくて悔しくて…。 「……えっと、あの、ベール…ヴァルド…王子…さま…」 何とも言い難そうに名を呼ぶティノが何だか可笑しくて、ベールヴァルドはぷすと笑った。 とは言っても、表情は1ミリも変わってはいない。 ただ、微かに空気が漏れるような音だけ。 だから、ティノはベールヴァルドが笑ったなんて気付かずに…。
「スーでええど」
続いて言われた言葉には、ただ面食らうだけで…。 「へ?す、すー?」 「そ」 「そ…って…?」
スーって呼べって…事…? って、何で…スーなんて……???
「えーと…じゃあ、スーさん…?」 「ん?」 「……スーさんは…僕の姉を恨んでないんですか…?」 さっき、ティノ自身は姉たちの事とは関係ないと言ってくれたベールヴァルドだが、だからと言って、自分の兄が死ぬ原因になったかも知れない姉のことは恨んでいるかもと…そう思うから…。 だが、尋ねれば、途端にベールヴァルドの顔が険しくなって…。 「ヒッ!」 ティノはビクリと身を竦めた。 自分は、もしかしたらとんでもない地雷を踏んでしまったのだろうかと、聞かなければ良かったと、心の底からそう思う。 「ご、ごご、ご、ごめ…なさっ」 引っ込んだと思っていた涙が再び滲んでしまうのを、どうにも出来ぬまま、恐怖にひきつった顔でベールヴァルドを見つめていれば、 「なして?」 彼はふと表情を元に戻して首を傾げた。 どうやら、先程の険しい顔は、深く考え込んでいた顔だったらしい…なんて事は、まだ今のティノには分からない。 「え?な…、何でって……だって…」 ただ、自分の問いかけを、逆に聞き返されるなどとは思ってもみなくて…、何だかオタオタとしてしまう。 そんなティノに、ベールヴァルドはまたぷすと小さく息を漏らした。 「おめさのあね様に無理だら、他の誰でも無理だなぃ…」 「え…」 「好き同士だったんだど…知らねがった?」 「お姉ちゃんが…?」 「ん」 コクンと頷くベールヴァルドから視線を外し、ティノはぼんやりとした視線を正面に向ける。
お姉ちゃんが…王子様と………。
言われてみれば、オトメの契約を交わすと決まった時、姉は本当に嬉しそうだった。 自国の王族のオトメになるのは誉れだから、喜ぶのは当然だと思っていた。 だが、あれは…それ以上に………。
「ただ、悲しめばえんでないの?」
言われた言葉に、ティノはハッとして、ベールヴァルドを見る。 「あ……」
悔しくて、悔しくて…ずっと涙が止まらなかった。 姉はきっと一生懸命に闘ったのだと思うのに、守れなかったとなじられて…。 亡くなったと聞いた時の、悲しみよりも、悔しさが勝って…。
だけど、そう……悔しがる必要はないのだ……。
きっと、姉はオトメとして、愛する人を守るために命を懸けて闘った。 死は結果でしかない。
「俺も、泣いだ。恥ずかしいごとね」 その言葉は、真っ直ぐに前を見て…ティノの方を見ないままで言われたから…。 「…う、ぅ…う、うわぁああああああん!」 ティノは顔をくしゃくしゃにすると、大きな声を上げて泣き出した。
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