「決めました」
泣いて、泣いて…ひたすら泣いて、それから長い間、ただぼんやりとして…。 やがて、やっと落ち着いたのか、ティノはスッキリとした声でそう呟いた。 「ん?」 何?と尋ねるベールヴァルド。 もう長いこと、彼に預けていた身を起こし、ティノはじいっとその空色の瞳を見上げる。 この無口な王子様は、ティノが泣いている間、ずっと…ただ側にいてくれたのだ。 その優しさが、ありがたくて、嬉しかった。 顔はちょっと怖いけど、いい人だと、ティノはこっそり思う。
「僕、オトメになります!」
「……」 その言葉はベールヴァルドにはとても意外なものだったから、言葉もなく見つめていれば、 「立派なオトメになって、お姉ちゃんの汚名を返上してみせます!」 ティノはそう言って、ニッと決意に満ちた笑みを浮かべた。 オトメが女性限定の職業だった時代は過ぎ去って久しい。 現代では、男性の『オトメ』だって、随分一般的になっては来ているが…。 それでも、やはり…オトメにはイメージ通りの可憐な少女をと望む者は多い。 だから、決意はどうあれ『言うは易く、行うは難し』であろうが……。 「…ん、そっが…」 「ええ、頑張りますよ!僕、絶対、凄いオトメになりますから!」 ぎゅっと拳を握り締め、ガッツポーズをしてみせるティノに、ベールヴァルドはウンと頷いて。
「ほだら、おめ、俺のオトメさなれ」
何とも自然にサラリとそう、言ってのけた。 「!」 兄王子が亡くなった今、ベールヴァルドはこの国の第一王位継承者だ。 近い将来、国王になるだろう。 そう、それは、ティノがオトメになるよりも、ずっとずっと確実に。 「い…、いいんですか?」 大きな目を更に大きくして、ティノが尋ねる。 「ん、約束な、ティノ」 シッカリと頷き、小指を差し出すベールヴァルド。 「あ…、あの、僕のこと、フィンって呼んで下さい」 自分もまた小指を出しかけ、ふと思いついてティノはそう言った。 「?」 ベールヴァルドが不思議そうな顔をするのに、ティノは照れ臭そうに、それでいて寂しそうに微笑む。 「もう…、呼んでくれる人がいなくなっちゃった名前なんですけど……」 恐らく、姉が呼んでいた愛称なのだろうと察して、ベールヴァルドは小さく頷いた。 「んだら、フィン、約束な」 「はい!」 ティノはニッコリと笑って、小指を絡める。
ゆびきり、げんまん。 そう、リズミカルに振られた手を見つめて…。
きっときっといつか、スーさんのマイスターオトメになって…、きっときっと、何があっても、スーさんを守り抜いてみせる…!
「僕、頑張りますね!」 ティノが決意を固めてそう言えば、ベールヴァルドは少し嬉しそうな様子で、ウンと頷いたのだった。
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とゆことで。 約束を交わす在りし日の二人なお話しなど☆ スーさんの心はもうすっかりフィンに奪われてますね(え)
スーさんとフィンに、勝手にお兄ちゃんとかお姉ちゃんとか作ってますが、まあ、まあ、まあ……(何がまあまあだ) ちなみに、フィンのお姉ちゃんの名前にしたレナってのは、マイオトメの主人公アリカちゃんのお母さんの名前であります。 (すごいマイスターオトメだったのですが、引退してオトメの力を無くした直後に仕えてた城が襲われ、お亡くなりに……)
それにつけても、秘密の花園的お庭が好きだな、あたし……(^^;
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