花泥棒とティノのお姉様 >
Update : 2009/06/09
※続いています
※2009/06/09に1〜3を、07/01に4,5をアップしました


オトメの道は、ガルデローベから…という言葉がある。


どんなにすごいマイスターでも、初めは普通の人間…。
その身体にナノマシンを埋め込まれなければ、決してオトメにはなれないのだ。

そして、そのナノマシンの技術を持っているのが、世界で唯一つ、スウェーデン王国の自治区にある『ガルデローベ学園』というわけである。

オトメ候補生達は、入学と共にナノマシンをその身体に埋め込まれ、仮のGEMを授かって、その制御や体術、教養等、オトメに必要な様々な知識と技術を学ぶのだ。


…と、まあ、さして面白くもない前置きはこれくらいにして…。。。



それは、ティノがガルデローベに入学して、丁度ひと月が経った日……。

「…あれ?」
寮に戻り、自室のドアを開ければ、何かがちょっと変わっているような気がして…。
「どうしたんだい?」
後から来たルームメイトのエドァルドに尋ねられ、ティノはう〜んと首を傾げた。

どうもこう……何か…おかしいような…気が……。
ってゆーか、何かこう…サッパリスッキリし過ぎてるってゆーか………。


「…何かほら……朝と変わった気がして……」
何だろ?なんて、怪訝な顔をしているティノの横から部屋を覗き込み、エドァルドは目を丸くした。

「…って!!!変わった気がして、どころじゃないよ!ティノ!君の私物、何処に行ったんだい?!?!」

「あ、やっぱり、気のせいじゃなかった?」
エドァルドの言葉に、ティノが何故か少し表情を明るくする。
「き、気のせいじゃなかった?じゃないだろーーっっ!」
あまりにも呑気なその反応に、思わず声を上げるエドァルド。
「ナニナニ〜?」
「どうしたんだい?」
ティノ達と同じように、それぞれの部屋に戻り掛けていたアルフレッドとフェリシアーノが、驚いた…というよりは興味を引かれてやって来た。
「んー、それがね、何か僕の物がなくなっちゃったみたいで…」
あはは、なんて笑えば、
「ティノ、笑い事じゃないよ!辞書も、ペンも、写真立ても、スリッパも、クッションも、朝まであった筈の物がみーんな消えてるじゃないか!」
エドァルドの方が慌てた顔で…。
その横で、フェリシアーノがウンウンと頷く。
「うん、ホント!見事にな〜んにもないよ、ティノ!」
「ん?でも、ほら、机の上に手紙みたいな物があるぞ?」
何故かドアの前で遠巻きに部屋を覗いている3人を余所に、アルフレッドはスタスタと室内に入ると、ティノの机の上にあった封筒を拾い上げた。
「ん〜?郵便じゃないみたいだな…?ガルデローベのマークが入った……カード?」
首を傾げるアルフレッドに、エドァルドが、あっと何かに気付く。
「それ…!もしかして、花泥棒の日?」

「「「 ハナドロボウ??? 」」」

エドァルドの言葉に、3人の声が見事に重なった。


+   +   +   +   +


「なあ、良かったのか?手ぇ打たなくて…」

ノックもなしに学園長室へと入り、その部屋の主が仕事に励んでいるのを確認すると、フランシスは前置きなしにそう言った。
部屋の主であるバッシュは、む?と眉を顰める。
「何がであるか?」
「今頃、寮は大騒ぎなんじゃないかってこと☆そろそろ、ブリューメンディープの時期だろ?」
パチンッとウィンク付きで言うフランシス。
何処からともなく取り出した薔薇の花を一輪、軽く唇にあて、それからピッとバッシュに向ける。
バッシュは肩を竦めると、また書類に目を戻した。
「別に…、この時期に寮が騒がしくなるのは、毎年のことであろう?」
「ん〜、そりゃそうだけどさ…、でも、今年のコーラルは、いつもより目立つ子がいるじゃん?」
「アルフレッドの事か?それなら皆も承知で…」
「ノンノン、坊ちゃんトコのガキんちょじゃなくてさ…」
そっちは対策済みなんでショ☆と苦笑しながら、チラリと見やる窓の外…。

その先には、スウェーデン王城がどーんっと建っている。


フランシスの視線を追って城を見れば、バッシュもその言いたいところを察して…。
「…だが、彼には特に何を言われたわけでもないぞ?」
「ったーく、愛を理解するにゃ、もちょっと頭柔らかくしなきゃだぜ〜?お前だって、入学式ん時のあれ、見ただろ?」
「………うむ…、まあ……見た…であるが……」

来賓として出席したスウェーデン国王ベールヴァルド…。
愛想のいい人物ではなく、無表情がデフォルトなのだが、実直で勤勉な性格と態度で、民の信望は厚く、バッシュも好感を持っている。
儀礼的な事を重んじる性格から、今までもガルデローベの式典などには欠かさず出席をしてきた彼だが……。
今年は、何やらいつになく真剣で……その眼力で人でも殺せそうな鬼気迫る顔で、ギギンッと一人の生徒を見つめ続けていたのだ。

「あの凶悪なまでの熱視線…。しかも、それがあのベールヴァルド国王となりゃ…」
「本気も本気…か……?」
「…と、お兄さんは見てるけどねぇ…」
むむむと表情を険しくして、少しの間考える素振りを見せ、バッシュは深々と溜息を付いた。
「全く……何だというのだ、今年は……!」
「ん?一言で言や、当たり年?ま、何にしても、用心するに越した事はないと思うぜ?」
パチコーン☆とまたウインク1つ。
「んじゃ、ま、それだけ。また向こう戻るわ」
じゃあね〜とヒラヒラ手を振り、部屋を出て行くフランシス。
「うむむ……」
バッシュは暫くの間、フランシスの出て行ったドアを見つけて呻っていたが、やがて深々と溜息を付くと「仕方あるまい」と呟いた。