ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2009/10/23
※続いています



「だーっからぁ、なーんでここ来てまでお前と組まなきゃなんだよ!」
「そんなこと言ったって、兄ちゃんと俺、成績一番違いなんだもん」
「そんなの知るかチクショー!」
「も〜、我が儘言っちゃだめだよ〜、決まってるんだから…」

ティノがみんなの元に駆け寄ると、ヴァルガス兄弟が何やら言い合いをしているところで…。

「ねえ、エド、あの二人は何をモメてるの?」
近くにいたエドァルドに尋ねれば、彼はヤレヤレと言いたげに肩を竦めた。
「ん〜、明日の組み合わせが、兄弟一緒なのが嫌らしいね」
「へえ…?珍しいね…??」
入学当初からいつも一番違いで…、何かと一緒に組まされている二人である。
ロヴィーノがそれに不満を言ったことなど、今まで一度もなかっただけに、何故今日に限って…と、それが不思議で。
「何か…最近荒れてるみたいですね…、彼…」
昨日、「くっだらねぇ」と吐き捨てて教室を出て行った姿を思い出してか、エドァルドが心配そうに顔を顰める。
「何かあったんですかねぇ…」
「ん〜〜…。バイトのせい…なのかなぁ……?」
っていうか、あのスペインの王様のせい?と、ティノはアントーニョののほほ〜んとした顔を思い浮かべながら…。

あの後…何かあったのかな……。
ロヴィーノ君、何か昨日よりも荒れてる感じがする…っていうか………。
そう言えば、アントーニョ様も来てたっけ…?

先程、説明を受けている時に、アントーニョの姿も見た様な気がしたが、定かではない。
だって、ティノはベールヴァルドのことで頭も胸もいっぱいで、周りを気にする余裕など、なかったのだ。
エドァルドとティノが、揃って首を傾げていれば、
「ま〜ったく、仕方ねーな…ロヴィーノの奴……。バッシュに叱られんぞ?」
バリバリと頭を掻きながら、呆れたようにフランシスが呟いた。
そして、

「ティノちゃん、わりーんだけどさ、アイツと組んでくれない?フェリシアーノ、オマエはノルとな」

悪いんだけど、と断っておきながら、こちらの意志は聞かないで。
フランシスは勝手に組を変えてしまった。
「え?ええっ?僕がロヴィーノ君と?」
ロヴィーノもフェリシアーノも友達で、好きではあるが、出来たら機嫌の悪いロヴィーノに近付くのは遠慮したいかも…というのが本音のティノである。
逆にしてくれればいいのに!と思ってフランシスを見上げれば、この年上のお兄さんは、悪戯っぽくウィンクをして寄越した。

「ま、恋するオトメ同士だしさ、アイツの話、聞いてやってよ☆」

「な…!こ…っっ、恋する乙女って…!もう、フランシスさんまでからかって!!!」
「え〜、マジな話だぜ〜♪♪っつーか、それよりも…お前はいいのか?」
「……何がですか?」
ふいに真面目な顔でフランシスが聞いてきたので、ティノもまた真面目な顔になって聞き返す。
「ベールヴァルド様…今夜はあそこに泊まるんだろ?お前、行かないの?」
そう言って、示す先にはリゾートホテルの一つ…。
生徒達は今夜からテントで宿泊するのだが、来賓は勿論、そんな事はなく…。
海岸沿いのリッチでゴージャスなホテル郡に、それぞれ宿を取っているのだ。
「え……☆」
フランシスの言葉に、ティノは一瞬ポカンとして…。
「い、行けるわけナイじゃないですかぁーーーーっっ!!なな、何言ってるんですか〜〜!!!」
それからボボンッと爆発でもしそうな勢いで、真っ赤に顔を染めた。
「あれ?何だ、そうなの?」
「何だ、そうなの?じゃないですよ!!!」
あまりの事に目眩がしてくるティノだが、フランシスはニヨニヨと笑いながら、ズイッと間を詰めてきた。
「アルフレッドはもうとっくにアーサーの部屋だぜ?」
「え……」
言われてみれば確かに、いつの間にやらアルフレッドの姿がない。

えええええ〜〜〜〜?!?!?!
って、そーゆーのアリなの?!?!?!学園側公認?!?!?!
団体行動とかそーゆーのはいいの〜?!?!?!
ってゆーか…アル君……そっか……そーなんだ……うわわわ〜〜〜〜…!

ウッカリ『いいなぁ』とか思ってしまy自分が恐い。
ティノがドギマギしていれば、
「ティノちゃんも若いんだからさ〜、遠慮ばっかしてないで、押し掛けちゃう位の情熱があったっていいと思うぜ?」
なんて、そそのかす愛の国のお兄さん。
「い、いやいやいや!遠慮とか情熱とかじゃなくて…、普通に無理ですってばっっ!!」
「だーいじょーぶ、だーいじょーぶ!ベールヴァルド様だって国離れてリゾート気分だって♪久しぶりなんだろ?喜ぶぜ〜?」
「そ、そんな…、でも…だ、だって……」

ズダーーーーン☆

突如響く銃声。
フランシスの笑顔が凍り付く。
そこにゆっくりと歩み寄り、
「何をしているか?フランシス…」
バッシュは銃を仕舞いながら、低い声でそう尋ねた。
「ちょ、おま…、聞く前に撃つなよっっっっっ!って、服!服に穴空いてるからっっ!!!!」
「煩い。次は額のど真ん中に開けてやるから、覚悟しておけ」
「わ〜、バッシュちゃんったら恐〜い!」
「ティノ、こんなふしだら髭男の言うことを聞いてはならんぞ!まったく、コイツが五柱を務めているなど…絶対に何かの間違いである…!」
「ふっふーん♪真祖様はお目が高いのさ♪そもそも、女性は皆、お兄さんのこの美貌が…」
「下らん事を言っていないで、いいからさっさと任務に戻るのである!」
ズルズルズル…と。
バッシュに引きずられて行くフランシス。

「あーあ、兄ちゃんも大変だね〜…」

それを、あわわ…なんて思いながら、ティノが見送っていれば、ふいにフェリシアーノが後ろから声を掛けてきた。
「え、う、うーん…、まあ……」
バッシュとフランシスはどっちの方が大変だろうか…なんてチラリと思い、曖昧な笑みを浮かべれば、フェリシアーノはにぱぱ〜と、いつも以上に嬉しそうな笑みを浮かべて……。
「どうしたの?フェリ君?」
「えへへ〜、ねえねえ、それでティノはどうするの〜?」
「え?」
「俺はねぇ、折角なんだから行った方がいいと思うな〜、だって、こんな機会って滅多にないよ?」
フランシスとの会話を聞いていたのだろう。
小首を傾げて可愛らしくニコッなんて笑うフェリシアーノに、けれど、ティノはウッと言葉に詰まる。
「い、いや、でも…、だって…来賓の方の泊まってるトコに押し掛けるなんて……やっぱり迷惑だよ!」
「そんなことナイと思うけどな〜。だって、さっきだって話しかけてきたのはベールヴァルド様の方だったじゃないか」
「う……うん…、まあ、それはそうだけど…」
「なのに、ティノったら全然喋らないでこっち来ちゃうし…王様、きっとティノともっと話したかったな〜って思ってるよ〜」
「えぇえ〜〜、そ、そんな事ないよ〜〜!」
とんでもないと手を振りながら、でもでもとティノ自身の心が声を上げる。

でもでも、もしかしたら……。
そうだよ、フェリ君の言う通り、スーさんの方がわざわざ話しかけに来てくれたんだもの……。
それって…スーさんは僕と話したいって…思ってくれたって事なんじゃない?
そうだよね、ちょっとくらいでも…思ってなかったら、わざわざ来てくれたりなんて……。

「それに…俺、思うんだけどね〜」
「え?」
「王様がどうこうじゃなくて、ティノがどうしたいかって方が大事なんじゃないかな〜?」
ヴェーヴェーと謎の声を発しながら言うフェリシアーノ。
言われた言葉が、ガツンとティノの心に響く。

僕が……どうしたいか………。

「フランシス兄ちゃんじゃないけど、俺達若いんだからさ。ホント、遠慮ばっかしてないで、押し掛けちゃう位の勢いがあったっていいと思うんだよね〜。兄ちゃんは情熱って言ってたけどさ、ねぇ?」

自分がどうしたいかなんて、思ってはいけないと思っていた。
思っても、表に出してはいけないと…。
だってベールヴァルドは王様なのだ。
如何に名家の息子とはいえ、もう次元が違うのだとそう思ってしまったから。
会いたいとか、話したいとか…そんな事はもう、望んではいけない事なのだと……思っていた。

だから、側にいる為には、マイスターオトメにならなければと……そう…いつからか何処かでそんな風に思っていたのだ。

でも……いいのかな…。
まだオトメになれてないけど……。
でも……友達だった事に変わりって…ないよね…?
友達だったら…話したり会ったり…したって…………。

「僕と…スーさんは……子供の頃からの知り合いで…時々だけど、会って…いろいろな事話してたんだ……」
「ほえ?」
ふいに語り出したティノに、フェリシアーノは少しだけ面食らって…。
「だから…、友達として…会いたいとか、話したいって思っても……変じゃない…かな…?」
けれど、続いた言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「うん、全然変じゃないよ!だって当たり前のことだもん!」
「……ありがと、フェリ君…!僕、行くだけ行ってみる…!」
「うん、頑張ってね!」
ポンッと背中を叩けば、それに押される様にして。
ティノが駆け出す。
「ごめんね、テントとか、全然やってないんだけど…」
「気にしないでいいよ〜♪後でいっぱい話聞かせてね〜!」
「う、聞かせる様な事なんて何もないったら…!」
もう!と呟いて、頬を赤らめるティノ。
それでも、走って行く後ろ姿は、心なしか嬉しそうに見える。

でも、友達として…じゃない方が、王様は喜ぶと思うけどね〜…なんて…。
まあでも、一歩前進だよね〜〜♪

「明日、隊長殿に報告せねばでありますな♪」
おちゃらけた独り言を、遠離るティノの背に向かって呟いて…。
フェリシアーノは満足そうに笑うと、ロヴィーノたちの元へ戻っていった。


※続いてます

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踏破試験の話なのに、踏破試験に入らないな…。
ホントはこことかすごい短くて、1頁使う程じゃなかったんですが…、何か書いてる内に多くなっちゃった。
次はスーさんサイドで1頁。
その次からですね、試験は。