※続いています
「だーっからぁ、なーんでここ来てまでお前と組まなきゃなんだよ!」 「そんなこと言ったって、兄ちゃんと俺、成績一番違いなんだもん」 「そんなの知るかチクショー!」 「も〜、我が儘言っちゃだめだよ〜、決まってるんだから…」
ティノがみんなの元に駆け寄ると、ヴァルガス兄弟が何やら言い合いをしているところで…。
「ねえ、エド、あの二人は何をモメてるの?」 近くにいたエドァルドに尋ねれば、彼はヤレヤレと言いたげに肩を竦めた。 「ん〜、明日の組み合わせが、兄弟一緒なのが嫌らしいね」 「へえ…?珍しいね…??」 入学当初からいつも一番違いで…、何かと一緒に組まされている二人である。 ロヴィーノがそれに不満を言ったことなど、今まで一度もなかっただけに、何故今日に限って…と、それが不思議で。 「何か…最近荒れてるみたいですね…、彼…」 昨日、「くっだらねぇ」と吐き捨てて教室を出て行った姿を思い出してか、エドァルドが心配そうに顔を顰める。 「何かあったんですかねぇ…」 「ん〜〜…。バイトのせい…なのかなぁ……?」 っていうか、あのスペインの王様のせい?と、ティノはアントーニョののほほ〜んとした顔を思い浮かべながら…。
あの後…何かあったのかな……。 ロヴィーノ君、何か昨日よりも荒れてる感じがする…っていうか………。 そう言えば、アントーニョ様も来てたっけ…?
先程、説明を受けている時に、アントーニョの姿も見た様な気がしたが、定かではない。 だって、ティノはベールヴァルドのことで頭も胸もいっぱいで、周りを気にする余裕など、なかったのだ。 エドァルドとティノが、揃って首を傾げていれば、 「ま〜ったく、仕方ねーな…ロヴィーノの奴……。バッシュに叱られんぞ?」 バリバリと頭を掻きながら、呆れたようにフランシスが呟いた。 そして、
「ティノちゃん、わりーんだけどさ、アイツと組んでくれない?フェリシアーノ、オマエはノルとな」
悪いんだけど、と断っておきながら、こちらの意志は聞かないで。 フランシスは勝手に組を変えてしまった。 「え?ええっ?僕がロヴィーノ君と?」 ロヴィーノもフェリシアーノも友達で、好きではあるが、出来たら機嫌の悪いロヴィーノに近付くのは遠慮したいかも…というのが本音のティノである。 逆にしてくれればいいのに!と思ってフランシスを見上げれば、この年上のお兄さんは、悪戯っぽくウィンクをして寄越した。
「ま、恋するオトメ同士だしさ、アイツの話、聞いてやってよ☆」
「な…!こ…っっ、恋する乙女って…!もう、フランシスさんまでからかって!!!」 「え〜、マジな話だぜ〜♪♪っつーか、それよりも…お前はいいのか?」 「……何がですか?」 ふいに真面目な顔でフランシスが聞いてきたので、ティノもまた真面目な顔になって聞き返す。 「ベールヴァルド様…今夜はあそこに泊まるんだろ?お前、行かないの?」 そう言って、示す先にはリゾートホテルの一つ…。 生徒達は今夜からテントで宿泊するのだが、来賓は勿論、そんな事はなく…。 海岸沿いのリッチでゴージャスなホテル郡に、それぞれ宿を取っているのだ。 「え……☆」 フランシスの言葉に、ティノは一瞬ポカンとして…。 「い、行けるわけナイじゃないですかぁーーーーっっ!!なな、何言ってるんですか〜〜!!!」 それからボボンッと爆発でもしそうな勢いで、真っ赤に顔を染めた。 「あれ?何だ、そうなの?」 「何だ、そうなの?じゃないですよ!!!」 あまりの事に目眩がしてくるティノだが、フランシスはニヨニヨと笑いながら、ズイッと間を詰めてきた。 「アルフレッドはもうとっくにアーサーの部屋だぜ?」 「え……」 言われてみれば確かに、いつの間にやらアルフレッドの姿がない。
えええええ〜〜〜〜?!?!?! って、そーゆーのアリなの?!?!?!学園側公認?!?!?! 団体行動とかそーゆーのはいいの〜?!?!?! ってゆーか…アル君……そっか……そーなんだ……うわわわ〜〜〜〜…!
ウッカリ『いいなぁ』とか思ってしまy自分が恐い。 ティノがドギマギしていれば、 「ティノちゃんも若いんだからさ〜、遠慮ばっかしてないで、押し掛けちゃう位の情熱があったっていいと思うぜ?」 なんて、そそのかす愛の国のお兄さん。 「い、いやいやいや!遠慮とか情熱とかじゃなくて…、普通に無理ですってばっっ!!」 「だーいじょーぶ、だーいじょーぶ!ベールヴァルド様だって国離れてリゾート気分だって♪久しぶりなんだろ?喜ぶぜ〜?」 「そ、そんな…、でも…だ、だって……」
ズダーーーーン☆
突如響く銃声。 フランシスの笑顔が凍り付く。 そこにゆっくりと歩み寄り、 「何をしているか?フランシス…」 バッシュは銃を仕舞いながら、低い声でそう尋ねた。 「ちょ、おま…、聞く前に撃つなよっっっっっ!って、服!服に穴空いてるからっっ!!!!」 「煩い。次は額のど真ん中に開けてやるから、覚悟しておけ」 「わ〜、バッシュちゃんったら恐〜い!」 「ティノ、こんなふしだら髭男の言うことを聞いてはならんぞ!まったく、コイツが五柱を務めているなど…絶対に何かの間違いである…!」 「ふっふーん♪真祖様はお目が高いのさ♪そもそも、女性は皆、お兄さんのこの美貌が…」 「下らん事を言っていないで、いいからさっさと任務に戻るのである!」 ズルズルズル…と。 バッシュに引きずられて行くフランシス。
「あーあ、兄ちゃんも大変だね〜…」
それを、あわわ…なんて思いながら、ティノが見送っていれば、ふいにフェリシアーノが後ろから声を掛けてきた。 「え、う、うーん…、まあ……」 バッシュとフランシスはどっちの方が大変だろうか…なんてチラリと思い、曖昧な笑みを浮かべれば、フェリシアーノはにぱぱ〜と、いつも以上に嬉しそうな笑みを浮かべて……。 「どうしたの?フェリ君?」 「えへへ〜、ねえねえ、それでティノはどうするの〜?」 「え?」 「俺はねぇ、折角なんだから行った方がいいと思うな〜、だって、こんな機会って滅多にないよ?」 フランシスとの会話を聞いていたのだろう。 小首を傾げて可愛らしくニコッなんて笑うフェリシアーノに、けれど、ティノはウッと言葉に詰まる。 「い、いや、でも…、だって…来賓の方の泊まってるトコに押し掛けるなんて……やっぱり迷惑だよ!」 「そんなことナイと思うけどな〜。だって、さっきだって話しかけてきたのはベールヴァルド様の方だったじゃないか」 「う……うん…、まあ、それはそうだけど…」 「なのに、ティノったら全然喋らないでこっち来ちゃうし…王様、きっとティノともっと話したかったな〜って思ってるよ〜」 「えぇえ〜〜、そ、そんな事ないよ〜〜!」 とんでもないと手を振りながら、でもでもとティノ自身の心が声を上げる。
でもでも、もしかしたら……。 そうだよ、フェリ君の言う通り、スーさんの方がわざわざ話しかけに来てくれたんだもの……。 それって…スーさんは僕と話したいって…思ってくれたって事なんじゃない? そうだよね、ちょっとくらいでも…思ってなかったら、わざわざ来てくれたりなんて……。
「それに…俺、思うんだけどね〜」 「え?」 「王様がどうこうじゃなくて、ティノがどうしたいかって方が大事なんじゃないかな〜?」 ヴェーヴェーと謎の声を発しながら言うフェリシアーノ。 言われた言葉が、ガツンとティノの心に響く。
僕が……どうしたいか………。
「フランシス兄ちゃんじゃないけど、俺達若いんだからさ。ホント、遠慮ばっかしてないで、押し掛けちゃう位の勢いがあったっていいと思うんだよね〜。兄ちゃんは情熱って言ってたけどさ、ねぇ?」
自分がどうしたいかなんて、思ってはいけないと思っていた。 思っても、表に出してはいけないと…。 だってベールヴァルドは王様なのだ。 如何に名家の息子とはいえ、もう次元が違うのだとそう思ってしまったから。 会いたいとか、話したいとか…そんな事はもう、望んではいけない事なのだと……思っていた。
だから、側にいる為には、マイスターオトメにならなければと……そう…いつからか何処かでそんな風に思っていたのだ。
でも……いいのかな…。 まだオトメになれてないけど……。 でも……友達だった事に変わりって…ないよね…? 友達だったら…話したり会ったり…したって…………。
「僕と…スーさんは……子供の頃からの知り合いで…時々だけど、会って…いろいろな事話してたんだ……」 「ほえ?」 ふいに語り出したティノに、フェリシアーノは少しだけ面食らって…。 「だから…、友達として…会いたいとか、話したいって思っても……変じゃない…かな…?」 けれど、続いた言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。 「うん、全然変じゃないよ!だって当たり前のことだもん!」 「……ありがと、フェリ君…!僕、行くだけ行ってみる…!」 「うん、頑張ってね!」 ポンッと背中を叩けば、それに押される様にして。 ティノが駆け出す。 「ごめんね、テントとか、全然やってないんだけど…」 「気にしないでいいよ〜♪後でいっぱい話聞かせてね〜!」 「う、聞かせる様な事なんて何もないったら…!」 もう!と呟いて、頬を赤らめるティノ。 それでも、走って行く後ろ姿は、心なしか嬉しそうに見える。
でも、友達として…じゃない方が、王様は喜ぶと思うけどね〜…なんて…。 まあでも、一歩前進だよね〜〜♪
「明日、隊長殿に報告せねばでありますな♪」 おちゃらけた独り言を、遠離るティノの背に向かって呟いて…。 フェリシアーノは満足そうに笑うと、ロヴィーノたちの元へ戻っていった。
※続いてます
+ + + + +
踏破試験の話なのに、踏破試験に入らないな…。 ホントはこことかすごい短くて、1頁使う程じゃなかったんですが…、何か書いてる内に多くなっちゃった。 次はスーさんサイドで1頁。 その次からですね、試験は。
|