※続いています
「言いそびれちまったなぃ…」
案内された部屋で一人になると、ベールヴァルドは溜め息混じりにそう言った。 窓辺に寄れば、テントを張るガルデローベの学生達が辛うじて見える。 ティノの姿を見つけられないだろうか、なんて目を凝らすが、遙か下界の学生達は、誰が誰と判別できるようなサイズではない。 それに元々、ベールヴァルドは目が悪いのだ。 「……ん〜……降りて行っだら…迷惑だべか…」 呟いて、ムムと眉根を寄せる。
本当はさっき、少し話せないかと聞いてみるつもりだったのだ。
このひと月あまり、かなりの激務をこなしたお陰で、今日からの3日は、完全にフリーの予定なのである。 仕事を、城を離れ、ティノの側で過ごせる3日間…その為に、頑張ったというのに……。
久しぶりだったからなぃ……。 何か、顔見だら…全部忘れちまっで…。
いつも、めんげ過ぎる!と思っているティノの愛らしい顔を思い出せば、きゅうんと甘い痛みが胸を貫いた。 やはり、行ってみようかと思う。 何しろ、明日はテスト本番…。 明後日ゴールするまでの間は、邪魔をするわけにはいかないのだ。 となれば、ゆっくり話せるのは今夜だけと言うことになるわけで…。 「んー…、んだなぃ…」 ベールヴァルドはコクリと頷くと、部屋を出た。 時間は限られているのだ。 迷って過ぎ去る時間など、勿体ない以外の何者でもない。
団体行動さ乱すわけにいがねって言うかもだげっちょ…、まあ、そん時はそん時だなぃ。
そんな風に思いながら、専用のエレベーターで一気に下まで降り、ホテルを出てみれば…そのすぐ目の前で、ウロウロしているティノを発見する。 「あ…っ!」 「!」 互いの姿を、殆ど同時に見つけ、二人は目を丸くして…。 「おめ…、なした?」 「あ、ああああの、いえ、僕はその……たまたま…っていうか、ええと、す、スーさんこそ、どうされたんですか?」 「ん……俺は…おめに…」 言いかけて、少し迷う。 もしかすると、ティノはここに何か用があって来たのかもしれないのだ。 それなのに、自分が「話がしたい」等と言えば、ティノは気を遣って、用事があると言い出せないかもしれない。 「え…?」 「…おめに…会いに行ぐとこだった」 それでも、正直にそう言ってみれば、ティノはただでも大きな瞳を更に更に大きくして…。 「え、ぼ、僕に?」 ベールヴァルドは険しい顔のまま、スイッと目線を逸らした。 「ん…げっちょ、何か用事あんなら、気にしねぇでえぇがら…」 「なっ、ないですよっ!!!用事なんて、全然ナイですっっ!」 「本当?」 「本当です!っていうか、僕……僕も、ホントは…スーさんに会いたくて…」 「!」 ティノの言葉にドキリと鼓動が跳ねる。 自分がティノに会いたかったように、ティノもまた自分に会いたいと思ってくれていたのか…。 そう思えば、カーッと心の奥底から沸き上がる、何か強くて熱い物…。 だが、一気に険しくなったベールヴァルドの顔を見て、ティノは大慌てで両手をバタバタと振って見せた。 「あぁっ、いえ、そうじゃなくてって、あ…いや、そうなんですけど!そ、その、ほら、何て言うか…っ!ガルデローベ入ってから全然ゆっくり話せてないですしっ!さっきは何か僕、久しぶりだったから、ちょと驚いちゃって…」 「ん」 俺もだとベールヴァルドは頷く。 さっきはそう、あまりにも久しぶりだったから…逸る気持ちのまま話しかけた物の、心の準備など出来ていなくて……だから、言いたいことを忘れてしまって…。 「ホントは…ずっと、スーさんと話したくて…、いろいろ話したい事いっぱいで…、だけど…ダメだって思ってて、だから、ですね…っ、だから、何て言うか…っ、僕……」 ティノの大きな葡萄色の瞳が、ジワジワと潤み出す。 「ティノ、おめ…」 「あ、あれ?うわ、何か…何だろ…、やだな…何で僕泣いて…」 そのままポロポロとこぼれだした涙に、最初は面食らった様子のベールヴァルドだったが、すぐにぷすりと小さく笑った。 「おめ、相変わらず…泣き虫だなぃ…」 手を伸ばし、ティノの髪に触れて…。 何だかシミジミ言ってしまえば、 「な、泣き虫なんかじゃないですよぉ!ただ、何か…何て言うか……っ」 慌てたようにそう言って、ゴシゴシと涙を拭うティノ。 だが、一度溢れ出してしまった涙は、簡単には止まらないようで…後から後から滲んでは、ポロポロと零れるから。 ベールヴァルドはそっとティノを引き寄せた。 自分に比べて大分小柄なティノ。 抱き締めれば、スッポリと腕の中に収まって…何やら堪らずキュウンとなる。
やっぱり、フィンはめんげぇなぃ…。
初めて見た時からずっと、これ以上ない程愛らしいと思っていた。 それは十年近くが経った今でも、全く変わることなく…。 それどころか益々…なんて…。
「す、スーさんっっっ?!?!ちょっ、ぬ、濡れちゃいますよっ!じゃなくて、ああああの…っ」 「泣かねぇでくなんしょ」 「うぇええっ?!?!だ、大丈夫ですよぅ、もう!」 アワアワするティノがまた可愛すぎて、大丈夫ですと言われても離す気になどなれない。 このままずっと抱き締めていられたら…なんて、ついつい思ってしまう。 「フィン、部屋さ来ね?」 ぎゅうぎゅうと抱き締めたまま、ベールヴァルドはそっと尋ねた。 「え、えぇええええっ?!?!」 「ダメ?」 「いや、いえ、その…、逆に…、いいんですか?僕なんかがお部屋に伺っても…?」 「ん、来てくなんしょ。久しぶりにゆっぐり話してぇし」 「……えとえと、じゃあ…、あの……お言葉に…甘えまして…、お邪魔したいです…」 「そ?えがった」 コクンと頷き、ティノを離して…けれど、手だけは離さずに。 「こっちだ」 その手を引けば、ティノは真っ赤に染めた顔を俯かせた。 「あ、はい…っ!」 はにかんだような笑顔が、また何ともかんとも『めんげぇ』から…。 ベールヴァルドはじいっと見つめたままで…。
かくして、二人はエレベーターに吸い込まれていったのだった。
※続いています
+ + + + +
ってことで。 残念ながら、この後何もない二人であります。 (最初に思い付いたのが「スーさんのオトメ」だったので……。。。。ちぇ) それでも許される範囲でラブ度上げようと思ってるんですが(笑)
次からホントに試験に入ります。
|