ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2009/10/27
※続いています


「言いそびれちまったなぃ…」

案内された部屋で一人になると、ベールヴァルドは溜め息混じりにそう言った。
窓辺に寄れば、テントを張るガルデローベの学生達が辛うじて見える。
ティノの姿を見つけられないだろうか、なんて目を凝らすが、遙か下界の学生達は、誰が誰と判別できるようなサイズではない。
それに元々、ベールヴァルドは目が悪いのだ。
「……ん〜……降りて行っだら…迷惑だべか…」
呟いて、ムムと眉根を寄せる。

本当はさっき、少し話せないかと聞いてみるつもりだったのだ。

このひと月あまり、かなりの激務をこなしたお陰で、今日からの3日は、完全にフリーの予定なのである。
仕事を、城を離れ、ティノの側で過ごせる3日間…その為に、頑張ったというのに……。

久しぶりだったからなぃ……。
何か、顔見だら…全部忘れちまっで…。

いつも、めんげ過ぎる!と思っているティノの愛らしい顔を思い出せば、きゅうんと甘い痛みが胸を貫いた。
やはり、行ってみようかと思う。
何しろ、明日はテスト本番…。
明後日ゴールするまでの間は、邪魔をするわけにはいかないのだ。
となれば、ゆっくり話せるのは今夜だけと言うことになるわけで…。
「んー…、んだなぃ…」
ベールヴァルドはコクリと頷くと、部屋を出た。
時間は限られているのだ。
迷って過ぎ去る時間など、勿体ない以外の何者でもない。

団体行動さ乱すわけにいがねって言うかもだげっちょ…、まあ、そん時はそん時だなぃ。

そんな風に思いながら、専用のエレベーターで一気に下まで降り、ホテルを出てみれば…そのすぐ目の前で、ウロウロしているティノを発見する。
「あ…っ!」
「!」
互いの姿を、殆ど同時に見つけ、二人は目を丸くして…。
「おめ…、なした?」
「あ、ああああの、いえ、僕はその……たまたま…っていうか、ええと、す、スーさんこそ、どうされたんですか?」
「ん……俺は…おめに…」
言いかけて、少し迷う。
もしかすると、ティノはここに何か用があって来たのかもしれないのだ。
それなのに、自分が「話がしたい」等と言えば、ティノは気を遣って、用事があると言い出せないかもしれない。
「え…?」
「…おめに…会いに行ぐとこだった」
それでも、正直にそう言ってみれば、ティノはただでも大きな瞳を更に更に大きくして…。
「え、ぼ、僕に?」
ベールヴァルドは険しい顔のまま、スイッと目線を逸らした。
「ん…げっちょ、何か用事あんなら、気にしねぇでえぇがら…」
「なっ、ないですよっ!!!用事なんて、全然ナイですっっ!」
「本当?」
「本当です!っていうか、僕……僕も、ホントは…スーさんに会いたくて…」
「!」
ティノの言葉にドキリと鼓動が跳ねる。
自分がティノに会いたかったように、ティノもまた自分に会いたいと思ってくれていたのか…。
そう思えば、カーッと心の奥底から沸き上がる、何か強くて熱い物…。
だが、一気に険しくなったベールヴァルドの顔を見て、ティノは大慌てで両手をバタバタと振って見せた。
「あぁっ、いえ、そうじゃなくてって、あ…いや、そうなんですけど!そ、その、ほら、何て言うか…っ!ガルデローベ入ってから全然ゆっくり話せてないですしっ!さっきは何か僕、久しぶりだったから、ちょと驚いちゃって…」
「ん」
俺もだとベールヴァルドは頷く。
さっきはそう、あまりにも久しぶりだったから…逸る気持ちのまま話しかけた物の、心の準備など出来ていなくて……だから、言いたいことを忘れてしまって…。
「ホントは…ずっと、スーさんと話したくて…、いろいろ話したい事いっぱいで…、だけど…ダメだって思ってて、だから、ですね…っ、だから、何て言うか…っ、僕……」
ティノの大きな葡萄色の瞳が、ジワジワと潤み出す。
「ティノ、おめ…」
「あ、あれ?うわ、何か…何だろ…、やだな…何で僕泣いて…」
そのままポロポロとこぼれだした涙に、最初は面食らった様子のベールヴァルドだったが、すぐにぷすりと小さく笑った。
「おめ、相変わらず…泣き虫だなぃ…」
手を伸ばし、ティノの髪に触れて…。
何だかシミジミ言ってしまえば、
「な、泣き虫なんかじゃないですよぉ!ただ、何か…何て言うか……っ」
慌てたようにそう言って、ゴシゴシと涙を拭うティノ。
だが、一度溢れ出してしまった涙は、簡単には止まらないようで…後から後から滲んでは、ポロポロと零れるから。
ベールヴァルドはそっとティノを引き寄せた。
自分に比べて大分小柄なティノ。
抱き締めれば、スッポリと腕の中に収まって…何やら堪らずキュウンとなる。

やっぱり、フィンはめんげぇなぃ…。

初めて見た時からずっと、これ以上ない程愛らしいと思っていた。
それは十年近くが経った今でも、全く変わることなく…。
それどころか益々…なんて…。

「す、スーさんっっっ?!?!ちょっ、ぬ、濡れちゃいますよっ!じゃなくて、ああああの…っ」
「泣かねぇでくなんしょ」
「うぇええっ?!?!だ、大丈夫ですよぅ、もう!」
アワアワするティノがまた可愛すぎて、大丈夫ですと言われても離す気になどなれない。
このままずっと抱き締めていられたら…なんて、ついつい思ってしまう。
「フィン、部屋さ来ね?」
ぎゅうぎゅうと抱き締めたまま、ベールヴァルドはそっと尋ねた。
「え、えぇええええっ?!?!」
「ダメ?」
「いや、いえ、その…、逆に…、いいんですか?僕なんかがお部屋に伺っても…?」
「ん、来てくなんしょ。久しぶりにゆっぐり話してぇし」
「……えとえと、じゃあ…、あの……お言葉に…甘えまして…、お邪魔したいです…」
「そ?えがった」
コクンと頷き、ティノを離して…けれど、手だけは離さずに。
「こっちだ」
その手を引けば、ティノは真っ赤に染めた顔を俯かせた。
「あ、はい…っ!」
はにかんだような笑顔が、また何ともかんとも『めんげぇ』から…。
ベールヴァルドはじいっと見つめたままで…。

かくして、二人はエレベーターに吸い込まれていったのだった。



※続いています

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ってことで。
残念ながら、この後何もない二人であります。
(最初に思い付いたのが「スーさんのオトメ」だったので……。。。。ちぇ)
それでも許される範囲でラブ度上げようと思ってるんですが(笑)

次からホントに試験に入ります。