※続いています
「よーし、終わったぞーーー!!!」
ガルデローベでは、年に数回、筆記試験と実技試験があり、特に重要な試験は前期と後期に2回ずつ行われる。 前期中間考査筆記試験の最終日…。 最後の科目を終え、教室には歓声と悲鳴が響いていた。
やっと…終わった……。
はー…と肺に溜まった全ての空気を吐き出すように息を付き、ティノはぐったりとイスの背に凭れた。 何とか全ての問いに答えを記し、かなり正答出来たと思う。 思うが、それでもやはり疲れるもので…。
順位…せめてキープしたいなぁ……。
そんなことを思えば、何だか憂鬱で…また溜め息が漏れた。 何しろ、オトメはとっても狭き門なのだ。 試験で連続最下位を取った者は退学になってしまうし、コーラル生からパール生に進級出来るのは約半数…。 だから、どうしても、皆順位にはかなり神経質になるわけだが…。 現在、学年3位のティノは、別に進級を心配しているわけではない。 ただ、卒業後、国王付きのオトメになりたいなんて思っている以上、出来るだけ優秀なオトメになりたいのだ。
やっぱり、トリアスを務める位じゃなきゃ…周りの人とか納得してくれない…かなぁ………? 王様って言ったら、国で一番の人だもんねぇ………。
王のオトメになるためには、どのくらい優秀でないといけないだろうか…なんて、ティノがぼんやりと考えていると、
「ぐえぇえ………撃…沈……☆」
後ろの席のフェリシアーノが、カエルみたいな声で呻いて机に突っ伏した。 その横では、兄のロヴィーノもまた同じように突っ伏しているのだが、こちらは声も出ない程に打ちのめされているといった様子だった。 「あはは、ホント、難しかったですよねぇ」 二人を振り返り、ティノがそう言って笑えば、 「またまた〜、そんなこと言って、君は余裕だったんだろ?」 アルフレッドが、何処に隠し持っていたのやら、ハンバーガーなんぞを食べながらやって来る。 「そ、そんな事ないですよぉ〜!それに、それを言うならアル君の方こそ!」 コーラル生の現主席は、何を隠そうアルフレッドなのだ。 ちなみに、次点はティノのルームメイト、エドァルドである。
「ん〜…アルもティノも、もうマスター決まってるんだもんねぇ〜。やっぱり、目標あると違うのかなぁ〜…」
ヴェ〜〜…と謎の声を発しながら、考え込むように呟くフェリシアーノ。 その言葉に、ティノは顔を真っ赤に染めた。 「き、決まってなんてないですってば!ただ、そうなれたらいいなぁ〜って…思ってるだけで…!アル君みたいに、ちゃんと決まってなんて…」 そう言えば、一斉に視線の集まったアルフレッドが、かぶりついていたハンバーガーをモグモグごくんと呑み込む。 「む、確かに僕はアーサーのオトメになるのが決まってるんだぞ☆まあ、オトメってゆーより、クイーンズナイトってゆーか…、ヒーロー的なあれだけどな!うん。でも、それだって、そもそもは子供の時の約束で…、そういう意味では君と変わりないと思うぞ?」 訳知り顔の笑顔で、オマケにパチンとウィンクひとつ。 ティノはそれにウウッと言葉を詰まらせた。
全然違うよ!絶対違う! そりゃ、変わりなかったら僕だって嬉しいけど……。 僕とスーさんは、この話ちゃんとしたことって、あれっきりないもの…。
アルフレッドと、イギリスの王子であるアーサーは、文字通りラブラブの仲なのだ。 全寮制のガルデローベに入った今でも、アルフレッドとアーサーは結構頻繁に会っている。 それが、ティノには羨ましい限りで……。 はう…とため息を付けば、
「そう言えば、スウェーデンの新しい王様は、まだオトメと契約してないんだよねぇ〜?」
フェリシアーノがむーっと人差し指を唇に当て、思い出したようにそう言った。 「きっと、ティノのこと待ってるんだよ〜!ねぇ!」 「うんうん、その可能性は十分にあるな」 「ま、ままま、まさかっっ!そんな事ないですって!そんなの、たまたまですよ!きっと!たまたま!」 やだな、みんなして!なんて言いながら、それでもどうしても、頬が熱くなってくる。 だって、もしかするともしかして…そうなのかもしれない…なんて、自分でもこっそり思っているのだ。 何しろあの律儀なベールヴァルドの事である。 子供の戯れ言であっても、約束は約束だと、ティノの卒業を待ってくれているのではないかと…そう思えて…。
う〜…でも…、あんな昔の事…ホントに覚えててくれてるのかなぁ……。 う、ううん!きっと、ちゃんと覚えててくれてるよね! スーさん、後もう少し…待ってて下さいね…! 僕、きっと立派なオトメになりますから!
内心また決意を新たにしつつ、エヘヘなんて笑ってしまえば。
「ティノって可愛いよねぇ〜♪」 「ああ、君は本当にオトメって感じなんだな」
フェリシアーノとアルフレッドにニヨニヨと笑われて…。 「なっ、何ですか、それ〜!」 「だって、まさに恋するオトメって感じだぞ♪」 「王様とオトメの恋か〜♪いいないいな〜♪」 「ち、ちち、ちがっ!違いますよっ!す、スーさんがそんなっ、ぼぼぼ、僕なんかっ!」 ボボンッと真っ赤に顔を染め、ティノが二人に向かってそう叫んだ時…。 突然、バンッ☆と大きな音がした。 「?!」 教室内の賑わいが、一瞬にしてピタリと収まり、全員の視線が集まる。 思い切り机を叩いて立ち上がった、ロヴィーノの元へ…。
「けっ、くっだらねぇ!」
ロヴィーノはクラス全員の顔を睨み、吐き捨てるようにそう言うと、そのままドタドタと教室を出ていってしまった。 「…何だい、あれ?」 「ん〜……兄ちゃん、最近何かイライラしてるんだよね〜〜……」 きょとんとするアルフレッドに、フェリシアーノはロヴィーノが出ていったドアを見つめて表情を暗くする。 「バイト先で何かあったのかな〜…?」 「え…、バイト?」 「うん、兄ちゃん、先月からギル兄ちゃんの紹介で、バイト始めたんだよ!」 ティノが、心配そうなその呟きを聞き返せば、途端に、いつもの明るい顔を取り戻し、フェリシアーノは頷いた。 『ギル兄ちゃん』というのは、フェリシアーノとロヴィーノがお部屋係をしているパール生、ギルベルト・バイルシュミットの事である。 「駅前のレストランなんだけどね〜、兄ちゃんにしては珍しく、ちゃんと行ってるんだ〜★」 「へえ、バイトか…面白そうだな♪その店にハンバーガーはあるかい?」 「んー、確か、何とか絶品バーガーが人気だとかって言ってたよ〜?」 「ぃよぉーし!それなら、みんなでそこに調査だ!」 「ええっっ?!?!で、でもでも…」 外出許可貰うの大変じゃ…と、不安を口にするティノ。 だが、ハンバーガーの為なら反省房行きの処分だって怖くないアルフレッドと、あまり何も考えていないフェリシアーノはすっかりその気で…。 「あ〜、それいい案だね〜!俺も気になってたし、うん、みんなで行ってみようよ☆」 「そうと決まれば、グズグズしてられないぞ!」 「え、ええええ〜〜っっっ?!?!」
かくして、3人はロヴィーノのバイト先へと調査に乗り出すことになったのだった。
※続いてます
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てことで。 ロヴィーノの憂鬱なんてタイトルのクセに、ロヴィーノ全然主役じゃないじゃんよー!とゆー。 いやいや、これからですよ! 次は親分とお兄さんが出てくるのであります★
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