花泥棒とティノのお姉様 >
Update : 2009/06/09
※続いています
※2009/06/09に1〜3を、07/01に4,5をアップしました


オトメの道は、ガルデローベから…という言葉がある。


どんなにすごいマイスターでも、初めは普通の人間…。
その身体にナノマシンを埋め込まれなければ、決してオトメにはなれないのだ。

そして、そのナノマシンの技術を持っているのが、世界で唯一つ、スウェーデン王国の自治区にある『ガルデローベ学園』というわけである。

オトメ候補生達は、入学と共にナノマシンをその身体に埋め込まれ、仮のGEMを授かって、その制御や体術、教養等、オトメに必要な様々な知識と技術を学ぶのだ。


…と、まあ、さして面白くもない前置きはこれくらいにして…。。。



それは、ティノがガルデローベに入学して、丁度ひと月が経った日……。

「…あれ?」
寮に戻り、自室のドアを開ければ、何かがちょっと変わっているような気がして…。
「どうしたんだい?」
後から来たルームメイトのエドァルドに尋ねられ、ティノはう〜んと首を傾げた。

どうもこう……何か…おかしいような…気が……。
ってゆーか、何かこう…サッパリスッキリし過ぎてるってゆーか………。


「…何かほら……朝と変わった気がして……」
何だろ?なんて、怪訝な顔をしているティノの横から部屋を覗き込み、エドァルドは目を丸くした。

「…って!!!変わった気がして、どころじゃないよ!ティノ!君の私物、何処に行ったんだい?!?!」

「あ、やっぱり、気のせいじゃなかった?」
エドァルドの言葉に、ティノが何故か少し表情を明るくする。
「き、気のせいじゃなかった?じゃないだろーーっっ!」
あまりにも呑気なその反応に、思わず声を上げるエドァルド。
「ナニナニ〜?」
「どうしたんだい?」
ティノ達と同じように、それぞれの部屋に戻り掛けていたアルフレッドとフェリシアーノが、驚いた…というよりは興味を引かれてやって来た。
「んー、それがね、何か僕の物がなくなっちゃったみたいで…」
あはは、なんて笑えば、
「ティノ、笑い事じゃないよ!辞書も、ペンも、写真立ても、スリッパも、クッションも、朝まであった筈の物がみーんな消えてるじゃないか!」
エドァルドの方が慌てた顔で…。
その横で、フェリシアーノがウンウンと頷く。
「うん、ホント!見事にな〜んにもないよ、ティノ!」
「ん?でも、ほら、机の上に手紙みたいな物があるぞ?」
何故かドアの前で遠巻きに部屋を覗いている3人を余所に、アルフレッドはスタスタと室内に入ると、ティノの机の上にあった封筒を拾い上げた。
「ん〜?郵便じゃないみたいだな…?ガルデローベのマークが入った……カード?」
首を傾げるアルフレッドに、エドァルドが、あっと何かに気付く。
「それ…!もしかして、花泥棒の日?」

「「「 ハナドロボウ??? 」」」

エドァルドの言葉に、3人の声が見事に重なった。


+   +   +   +   +


「なあ、良かったのか?手ぇ打たなくて…」

ノックもなしに学園長室へと入り、その部屋の主が仕事に励んでいるのを確認すると、フランシスは前置きなしにそう言った。
部屋の主であるバッシュは、む?と眉を顰める。
「何がであるか?」
「今頃、寮は大騒ぎなんじゃないかってこと☆そろそろ、ブリューメンディープの時期だろ?」
パチンッとウィンク付きで言うフランシス。
何処からともなく取り出した薔薇の花を一輪、軽く唇にあて、それからピッとバッシュに向ける。
バッシュは肩を竦めると、また書類に目を戻した。
「別に…、この時期に寮が騒がしくなるのは、毎年のことであろう?」
「ん〜、そりゃそうだけどさ…、でも、今年のコーラルは、いつもより目立つ子がいるじゃん?」
「アルフレッドの事か?それなら皆も承知で…」
「ノンノン、坊ちゃんトコのガキんちょじゃなくてさ…」
そっちは対策済みなんでショ☆と苦笑しながら、チラリと見やる窓の外…。

その先には、スウェーデン王城がどーんっと建っている。


フランシスの視線を追って城を見れば、バッシュもその言いたいところを察して…。
「…だが、彼には特に何を言われたわけでもないぞ?」
「ったーく、愛を理解するにゃ、もちょっと頭柔らかくしなきゃだぜ〜?お前だって、入学式ん時のあれ、見ただろ?」
「………うむ…、まあ……見た…であるが……」

来賓として出席したスウェーデン国王ベールヴァルド…。
愛想のいい人物ではなく、無表情がデフォルトなのだが、実直で勤勉な性格と態度で、民の信望は厚く、バッシュも好感を持っている。
儀礼的な事を重んじる性格から、今までもガルデローベの式典などには欠かさず出席をしてきた彼だが……。
今年は、何やらいつになく真剣で……その眼力で人でも殺せそうな鬼気迫る顔で、ギギンッと一人の生徒を見つめ続けていたのだ。

「あの凶悪なまでの熱視線…。しかも、それがあのベールヴァルド国王となりゃ…」
「本気も本気…か……?」
「…と、お兄さんは見てるけどねぇ…」
むむむと表情を険しくして、少しの間考える素振りを見せ、バッシュは深々と溜息を付いた。
「全く……何だというのだ、今年は……!」
「ん?一言で言や、当たり年?ま、何にしても、用心するに越した事はないと思うぜ?」
パチコーン☆とまたウインク1つ。
「んじゃ、ま、それだけ。また向こう戻るわ」
じゃあね〜とヒラヒラ手を振り、部屋を出て行くフランシス。
「うむむ……」
バッシュは暫くの間、フランシスの出て行ったドアを見つけて呻っていたが、やがて深々と溜息を付くと「仕方あるまい」と呟いた。





 
花泥棒とティノのお姉様 >


「花泥棒の日ってゆーのは、別名ブリューメンディープって呼ばれて…、先輩達がお部屋係を選ぶ儀式の事なんだ」

いいかい?なんて、まじめくさった顔で説明するエドァルド。
彼を囲むように床に座り、3人はフンフンと頷く。
「まず、パール生が世話係にしたいな〜ってコーラル生の持ち物を盗み、代わりにカードを置いて行く…」
「これだね、いっぱいあるね〜!」
フェリシアーノが拾い上げたカードは、ザッと見ただけでも10枚以上あるから、ティノは少し困ったような顔でエドァルドを見た。
「それで…僕はどうしたらいいの?」
「ん〜っと、OKな場合は、そのパール生の所に行くんだよ。パール生は盗んだ物の代わりに、自分の物をあげるんだって。まあ…それで、契約成立ってわけだね」
「う〜…って事は、やっぱり、誰か選ばなきゃいけないって事…?」
困っちゃうな…と呟けば、その横で顔を顰めていたアルフレッドが、ムムムと呻る。
「部屋係については、聞いた事があるぞ…」
「うん、ガルデローベの伝統的な風習だね。二人ひと組で、お姉様のお世話をするってゆー…。まあ、今はお兄様もいるわけだけど…」
エドァルドの言葉に、ティノもそう言えば…なんて思い当たるフシがあって…。

そう言えば…学校説明の時とかに、チラッと聞いたかも…。
後輩が、先輩のお部屋のお掃除したり、お弁当作ったりして…代わりに勉強見て貰ったりするとか……。
だったら、お姉様がいいかな…。
お姉様か……お姉ちゃんもやってたのかなぁ……。

ぽわわんと…ティノが亡くした姉を思い出したりしていれば、
「あ、俺もそれ、何となく聞いた事あるよー☆お風呂一緒に入ったりするんだよね!」
フェリシアーノがそんな事を言い出した。
「えっ?お、お風呂???」
「背中流してあげるとか聞いたよ?」
うん!と元気よく頷くフェリシアーノに、ティノはぎょぎょっと目を丸くする。
「そっ、そうなの?それじゃ、お姉様はダメじゃない!で、でもでも、これとかこれとか、お姉様だよ?」
貰ったカードには、明らかに女性と思われる名前がいくつかあるから…。
ティノは真っ赤に顔を染め、それらのカードを困惑気味に見つめて…。
「わぁ、ホントだ〜!ティノ、いいな〜!俺のトコにも来ないかな〜vv」
「えええ〜?僕は困るよ〜!」
「あはは、大丈夫だよ、ティノ。別に何をしなきゃいけないって決まりはないんだ。それは、話しあって決めるみたいだよ」
「あ、そうなんだ!良かった〜!ビックリした〜!」
エドァルドの言葉に、ホッと胸をなで下ろすティノだったが…、

「甘い!甘いぞ!キミタチ!」

突然、アルフレッドがそんな声を上げた。



 
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「え、何?」
「どうしたの?アル君…?」
「俺は思い出したぞ!お世話係の真の怖さを!」

「「「…真の…怖さ…?」」」

今度は、ティノ、エドァルド、フェリシアーノの3人の声が見事に重なる。
「ああ、そうだ。お部屋係を甘く見ちゃダメだぞ!」
チッチッチと人差し指を振り、アルフレッドはヒタッとティノを見つめた。
「え、な、何で……?何かあるの?」
そう言われると、何だかとっても不安になって…ティノはアルフレッドを見上げ、困惑の面持ちで尋ねる。
「いいか、ティノ!お部屋係制度は、マスターに仕える訓練とも言える…。オトメにとって、マスターの命令は絶対だろ?つまり!お兄さま・お姉さまの命令も絶対なんだ!」
「う、うん…?」
ズズイッと詰め寄るアルフレッドの真剣な様子と、その勢いに飲まれ、ティノは怖ず怖ずと頷いた。
「だから、部屋係になる先輩はよーーーっく選ぶ必要があるんだぞ!じゃないと…」
「じゃないと…?」
「ティノ…」
真剣な顔で聞いているティノの顎をスイッと掬い、上向かせる。
そして…。
「キミはホントに可愛いね…」
「は?」
「今夜は俺の所に泊まっていくんだぞ?」
キラリンと何か煌めきが見えたのは、目の錯覚なのか、気の迷いなのか…。
「へ………?」
唖然とするティノに、近付くアルフレッドの顔…。
「…え……?ちょ…っと…?あ…の……?」

何…これ?
何これ?
なにこれぇえええええ??????

頭がようやく状況を理解した時には、アルフレッドの顔はもう本当に目の前で…。
「!!!」
ティノはぎゅうっと目を瞑った。

す…、スーさん…っ!!!

閉じた視界に浮かぶ、ベールヴァルドの顔…。
そして、ちょんっと…軽い感触が唇にあって…。

「ま〜ったく、君って奴は…。こーゆー時って普通、少しは抵抗とかするもんじゃないのかい?」

呆れたようなアルフレッドの声…。
「…へ?」
バッと目を開ければ、唇に触れていたのは、アルフレッドの人差し指だった。
「わ〜〜、俺、アルは本当にしちゃうのかと思ったよ〜〜!」
ドキドキしたね〜、なんて呑気に笑うフェリシアーノの隣で、エドァルドが顔を真っ赤に染め、コクコクと頷いている。
「え…?あ…っ、もーーーーっ!アル君ったら!いきなり何するのさーー!」
「だから、こーゆー事になるかもしれないってのを実戦してあげたんだぞ!君はちょっと無防備すぎるからな☆」
エッヘンなんて胸を張るアルフレッドと、ウググと言葉に詰まるティノ。
「うん、でも…、ホントにそーゆーのあるみたいだから…。気を付けた方がいいよ、ティノ」
「…エド…」
本気で心配してくれているエドァルドの言葉が、今はズゥンと重い。
だって、気を付けろと言われた所で、どう気を付けたらいいのか、ティノには皆目見当も付かないのだ。

「お部屋係ってドキドキだねぇ〜、俺もそんな事になっちゃったらどーしよー!」

どうしようなんて言いながら、その実、楽しみにしてるような笑顔で…何とも呑気にそんな事が言えるフェリシアーノが羨ましい。
いっそ代わって欲しいくらい…と思い、ティノはハッとした。
「ちょっと待って!僕に来てるんだもん、みんなだって貰ってるんじゃないの?」
アルフレッドもフェリシアーノも、まだ自分の部屋には戻っていない筈だ。
だとしたら、部屋にカードが届いている可能性は、決してゼロとは言えないだろう。
「大体、そうだよ!エド!君だって、あのペーパーウェイトは?朝までそこにあったじゃない!」
ビシリと机を指させば、エドァルドは慌てて自分の机の上を確認して…。
「え…?あ…!あーーーっっっ、ホントだ!しかも、こんな所にカードがっ!」
辞書の下から緑色の封筒を発見して、拾い上げた。
途端、ぱあっと顔を輝かせるフェリシアーノとアルフレッド。
「えーっ!俺にも来てるのかな?わーー♪見てくる〜〜♪」
「そうか、そう言えばそうだったな!よし、俺も見てくるぞ♪」

な、何であの二人、あんなに楽しそうなんだろう……。

ウキウキ駆け出して行った別室の二人を、見送り、ティノは感心するやら呆れるやら…。
そうこうする内に、エドァルドはカードを開けたらしい。
「あ、トーリスからだ♪」
なーんだ、なんてホッとした声が聞こえ、ティノはハッとして振り返った。
「え、トーリスさんからだったの?いいなぁ〜!」
エドァルドにカードを送ったのは、同じポーランド国出身の先輩で、ティノも何度か話した事のある人物からだったようだ。
トーリスの穏和な笑顔を思い出し、心の底からエドァルドを羨ましいと思う。

うう、僕みんな知らない人ばっかりだよ〜…。
ってゆーか、この先輩達はいつ何処で僕の事知ったんだろう…。
むしろそこを聞いてみたいよ……。

ううう〜と、カードを眺めてティノがひたすら悩んでいれば……、ふいにドンドンと。
結構乱暴な感じに、ドアがノックされた。



+   +   +   +   +

とゆことで、オトメ設定学園物でございます〜☆

いっぱいキャラ出して、何か無性に楽しい気分ですvv
ヘタリアのキャラってみんな可愛いよね♪
みんなでわいわいやってるのを眺めてるのもいいなぁ、とか。


あ。マイオトメの原作設定では、ガルデローベの入学資格は14歳〜16歳の女の子なので、14歳〜18歳までのお嬢さん方が就学しているわけですが。
ここではちょっと年齢引き上げて、16歳からにしたいと思います。
高校生な感じだね。


まあ、そんなわけで、学園物もいくつか書く予定してますので、よろしければお付き合い頂けると嬉しいのです☆


2009.06.09.


 
花泥棒とティノのお姉様 >
Update : 2009/07/01

「はい?」
「開けてくれる〜?手が塞がってるの!」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、女の人の声だった。
ティノとエドァルドは顔を見合わせ、それからドアを見やる。
「早く!」
「あ、はい!」
きびきびした声で言われ、ティノは慌ててドアを開けた。
「ありがと〜」
ドアの向こうにいたのは、ティノでも知っている有名なパール生だった。
下の方だけ緩いウェーブがかかった栗色の長い髪と、右耳のちょっと上あたりに留められた花飾りがトレードマークの…。

確か…トリアスナンバー1の…エリザベータ・ヘーデルヴァーリ…さん…だっけ?

ティノが名前と顔を一致させていれば、彼女は二人を押し退けるようにして部屋に入り、両手に抱えていた物をドサリと机の上に置いた。
そして、くるりと振り返り、
「あなたがティノよね?」
そう言って、ティノに手を差し出す。
「え、あ、はい…!」
「わたしはエリザベータ・ヘーデルヴァーリ。これからよろしくね!」
「……はあ…、こちらこそ…」
これからよろしくね、とは一体どういう意味なのか…。
ティノが戸惑いながらもその手を取れば、エリザベータはニッコリと微笑んだ。

「ねえねえ、ティノ、これって持って行かれた君の私物じゃないかい?」

エドァルドにコソリと言われ、ティノはチラリと自分の机を見やった。
成る程。
確かに、そこにあるのは、カードと引き替えに消えたティノの私物だ。
多分、なくなった物全部だろう。
「ええと…、これは…?」
「今日から君はわたしのお部屋係よ」
パチンとウィンク1つ。
「「え?」」
その言葉に、ティノとエドァルドの声がハモった。
「ん?あ、そっか…一応儀式はやっとかなきゃかな?」
エリザベータは「あ」なんて言いながら、つい今し方運んできたティノの私物をザッと見て…。
「じゃあ、これ…貰ってもいい?」
フワフワした子犬の絵が描かれたマグカップを手に取った。
「え?あえっと………はい…」

えー……と…?
これは……一体全体…どういう事????

わけの分からないまま、それでも頷けば、
「カードは省略ってことで☆んーと、じゃあわたしからは……」
ええと…と呟き、花飾りの付いた髪留めを外すエリザベータ。
「これ、あげる♪」
オマケにそれを髪に付けてくれたりなんかして…。
「うん、可愛い可愛い♪」

えーとえーとえーと……。
つまり……これって…花泥棒の日って儀式で………それで……つまり…。

「えええっ?!?!ぼ、僕のお姉様っっ?!?!」
ようやく状況が飲み込め、ティノはぎょっとしてエリザベータを凝視した。
「うんそう。いや?」
「うえええっっ?!?!い、いやって、そんなっ、イヤだなんて事はないですけどっ、でもでも…、あの、何で…ですか?」
トリアスとは、パール生の成績上位者3名の特別な呼び名で、彼らは生徒でありながら、他の生徒の模範となり、その生活や風紀を指導する立場にある。
エリザベータはそのトリアスのナンバー1を務めている。
つまり、ガルデローベの全生徒の中で一番すごい人ということだ。
そんな有名人が、何故、自分なんかを…と、とにかくビックリしてしまって…。
だが、
「だって、可愛いから♪」
エリザベータは事も無げにそう言うと、またニコッと微笑んだ。

か、可愛いって………!!
こんな綺麗な人に言われても……!!!
ってゆーか、第一、僕…男なんですけど………。
あ…、も、もしかして、この人…気を付けなきゃいけないってタイプの人なのかな…。

先程、アルフレッドにされた事やエドァルドに言われた事を思い出し、ティノはどうしようと心の中で呟いた。
すると、そんな思いはすっかりお見通しといった感じで、
「あら、もしかして不安にさせちゃった?」
エリザベータはさも可笑しいと言わんばかりに、ごめんごめん☆なんて明るく笑う。
「でも、大丈夫☆実は、学園長に頼まれたの。私なら、もうお仕えするマスターも決まってるし、安心だと思ったんじゃないかな?」
「え…?が、学園長…?」
「頼まれたんですか?学園長に?」
エリザベータの言葉に、ティノとエドァルドは顔を見合わせた。
二人の脳裏に、バッシュの厳しそうな顔が浮かぶ。
入学以来、何かにつけて顔や姿を見る機会は多い人だが、特に個別で話をしたような覚えはない。

ますますもって、分からない………。
てゆーか、何で???

二人の顔にハッキリと表れたそんな戸惑いを見て、エリザベータはパタパタと手を振った。
「あ、それまで何で?なんて聞かないでね。私だって、そこまでは聞いてないんだから!」
「え…、そうなんですか…?」
「そう!ま、とにかく。君は私のお部屋係になったわけだから、早速、部屋に来て貰おうかな♪」
パチリ☆とウィンク1つ。
エリザベータに「いいかな?」なんて尋ねられ、ティノはコクリと頷くほかなかった。





 
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Update : 2009/07/01

コーラル生が2人から3人の相部屋であるのに対し、パール生には1人につき1部屋が与えられる。
広々とした部屋には立派な調度品が置かれ、1年違うだけで、こんなにも待遇が違うものか…と、感心する程だ。

案内されたエリザベータの部屋には、写真が沢山飾られて、何だかとても賑やかだった。
中には子供の頃の物もあり、ティノは微笑ましくそれらを眺めて…。

「…あ、もしかして…この方が、もう決まってるっていうマスターの方ですか?」

やたら多く飾られている、黒髪にメガネの好男子をちょんっと指差し、尋ねてみる。
途端、ぱあっと明るくなるエリザベータの顔。
「ええ♪ドイツ国オーストリア辺境伯のローデリヒ・エーデルシュタイン様よ♪」
「オーストリアの…。あ、エリーさんも、オーストリア出身でしたよね?もしかして、幼馴染みなんですか?」
そう尋ねてみれば、エリザベータはニコニコの笑顔で、うんと頷いた。
「そう♪元々、親同士が親友でね、だから、生まれた時から知ってるって感じ?」
「へ〜!すごい…!素敵ですねぇ、そーゆーの…」
「でしょ♪オトメになるってゆーのも、子供の頃からの約束なんだよね♪」
そう言って、写真のローデリヒに向ける眼差しは、とても優しくて…嬉しそうで…。

エリーさん…、ローデリヒさんがすごく好きなんだ……。

何だかいいなと思ってしまう。
トリアスのNo.1を務めるエリザベータなら、マイスターオトメになるのは確実であろう。
勿論、今年一年で、大きく順位を落とすようなことがなければ…だが。
それでもきっと、望みの通り…。
エリザベータがローデリヒのマイスターオトメになり、卒業して行く姿が、もう目に浮かぶようだ。

そっか…、子供の頃からの約束…かぁ………。
結構あるんだろうな…そーゆーの…。
僕も…ちゃんとスーさんのオトメになれるかな……。

我が身を振り返れば、何だか溜息が漏れてしまう。
一応、ティノの入学試験の成績は良くて、今の席順は3位である。
マイスターオトメになるには、マイスターGEMに選ばれる必要もあるから、成績だけでどうとは言えないが…。
それでもやはり、国王付きのマイスターオトメを目指す身なれば、トリアスを務めるくらいでありたいと思う。

トリアスって3位までだもんね……。
う〜…ギリギリだなぁ…。

「頑張らなきゃ…」
はー…っと溜息混じりにそう呟けば、
「あれ?もしかして…ティノちゃんもマスターになって欲しい人がいるの?」
エリザベータがやたら嬉しそうな様子で、顔を覗き込んできた。
「えっ、いや、あの……、それは、まあ……」
もにょもにょと口ごもれば、俄然色めきだつエリザベータ。
「えー、だれだれ?」
ズズイッと詰め寄られ、ティノはオロオロと視線を彷徨わせてしまう。

今まで、ベールヴァルドのオトメになりたいと思っていることを、誰かに打ち明けたことはない。

何せ、相手はこの国の王様なのだ。
マイスターオトメになることだって、並大抵のことではないのに、その上国王のオトメになりたいだなんて…。
いくら、子供の頃に約束したとは言え、何だかあまりにも大それていると思えて……。
「えっ、ええと、あの、そんな…誰…って言うかぁ〜……」
「ほらほら、お姉様に隠し事はなしよ〜☆」
言っちゃいなさいよ♪なんて言われ、

「…………ス…」

つい、ポツリと言葉が漏れる。
「す?」
「………スーさんって……人…なんです…けど……」
そう言った途端、何だかもうとにかく恥ずかしくて、ティノはぼぼぼっと真っ赤に顔を染めた。

い…、いいいい、言っちゃったっっっ!!!!!!!
スーさんの事…!
誰にも言ったことナイのにっっっっ!!!!!!!

ティノが、ベールヴァルドのことを『スーさん』なんて呼んでいるのは、まだこの学園では誰も知らない事である。
だから、エリザベータは、それがこの国の王様のことだなんて、気付きもしないで。
「ふんふん、どんな人?」
興味津々といった感じで聞き返してきた。
どんな人と聞かれれば、ぽわんと脳裏に浮かぶベールヴァルドの姿…。
「えっと…ぉ、スーさんは……大きな人で、背とかすごく高くて…、その、顔は…ちょっと恐いんですけど…、で、でも、ホントはすごく優しくって…!何て言うか…ちょっと可愛い所もあって……あ、目がすごく綺麗な空色なんですよ!それで…」
最初は恥ずかしいような気がしたが、それでも思い浮かぶまま伝えるのは楽しくて……。

会いたいなぁ…なんて思いが頭を掠め、甘い痛みがきゅんと胸を刺す。

ベールヴァルドとちゃんと『会えた』のは、一体いつが最後だっただろう…。
入学式の時に姿を見る事は出来たが、会話らしい会話をする時間はなくて………。

何だか、会いたくて堪らなくなる。
別に、会ってどうするというわけでもないのだ。
いつだって、ただ隣に座り、他愛のない話をして……のんびりと時間を過ごす。

昔からずっと…本当に、ただそれだけで……、それでも……。

「ティノちゃんはスーさんが大好きなんだね♪」

「えっっっっ?!?!」
「今、会いたいなぁって思ってたでしょ?」
ニヨニヨ〜と笑って言うエリザベータ。
「な、何で分かったんですか?!?!」
心の内を見透かされて、ティノは動揺のあまり正直にそう聞いてしまった。
エリザベータはチッチッチと指を振ってみせる。
「ふふ〜ん♪お姉様を甘く見ちゃダメよ♪恋する乙女は、人の恋にだって敏感なんだから♪」
「ええええ〜〜っっっ?!?!?!こ、恋って…そんな!っていうか、だって、スーさんって…男の人ですよ?!?!?!」
「あら、そんなの関係ないわよ♪だって、好きなものは好き♪でしょ?」
「…………」
あっけらかんと笑われ、ティノは目から鱗の落ちる思いでエリザベータを見つめた。

好きなものは好き……で…いいんだ……。

自分の思いが『友達として好き』から、少し逸脱しているかもしれない…と気付いたのは、いつだっただろう。
ベールヴァルドの父王が病に倒れ、王位の継承等で忙しくなって…、全然会えない日が続いて……。
会いたくて会いたくて…苦しくて堪らなくなって…初めて……、ティノはただの友達以上の気持ちがある事に気付いてしまったのだ。

でも……おかしいんじゃないかって思ってた…。
スーさんも僕も男で……なのに、こんな気持ち…って…。
でも、いいんだ……別に……。

「それでそれで??」
惚けているティノに柔らかな笑みを向けつつ、エリザベータは尋ねた。
可愛い後輩少年の恋話は、何やらとっても胸をときめかせる物がある。

スーさんって…どんな人なのかしら♪
こんな可愛い子が好きになるんだもん、きっとすっごい格好良かったりするのよねぇ♪
うわーーvv見てみた〜〜いvvv
ってゆーか、ティノちゃん可愛すぎ!!!!

「それで…って……それだけっていうか…」
「告白とかしないの?」
「し、ししし、しないですよぉっっっ!っていうか、出来ませんよぉおおっっ!!!」
「えー、何で?」
きょとんと聞かれるが、ティノはバタバタと両手を顔の前で振って『とんでもない』と示した。

何でって…だって、スーさんは…、スーさんは……。
っていうか、告白って〜〜〜!!!!!

考えただけで、おひぇえええ〜〜〜っっっとか叫び出しそうになる。
見ているエリザベータはそんなティノが可愛すぎて、堪らない。

「む、無理です…!僕、告白なんて…絶対、無理…!」
「えーー!勿体なーーい!どんな事でも、絶対無理なんて言っちゃダメよ!最初から諦めてちゃ、大丈夫な事だってホントに無理になっちゃうんだから!」
「う…ううう、そ、そうなんですけど……」
でもでもぉ〜と言い募るティノに、エリザベータはまたピッピッと人差し指を振って見せた。
「いーい、ティノ?恋もオトメも同じよ?大切なのは、力と、技と、根性よっ!」
「ち…力と技と根性……?」

根性はともかく…力と技って………。

「頑張りなさい!私が応援してるから!」
一瞬、考えてしまったティノだったが、応援してるから!と力強く言われれば、何だかとても嬉しくなって…。
思えば…今まで誰にも打ち明けた事などなかったから…。

誰かに話すのって…いい事かも……。
応援…か…。
僕、いいお姉様に恵まれたのかな…。

「……ありがとうございます、エリーさん!僕、頑張ります!」
ティノはウンと1つ頷くと、はにかんだような笑顔を浮かべて、そう言った。





続いてます〜☆


+   +   +   +   +

とゆことで……まだ続いてますが;
ティノのお姉様はエリザベータさんです☆
エリザベータさん大好きですvvvvいろいろと(笑)

次は、これの続き上げる前に、ロマーノの出てくる話を先にアプしそうです。
(てか、ホントはそっちの話を先に書いてあって、この話は予定になかったんですが…、エリザベータ出したい…!ティノ可愛がって欲しい…!とか思って…。。。)


2009.07.01.
 
 
 
ロヴィーノの憂鬱☆ >
Update : 2009/07/21
※続いています


 

「よーし、終わったぞーーー!!!」

ガルデローベでは、年に数回、筆記試験と実技試験があり、特に重要な試験は前期と後期に2回ずつ行われる。
前期中間考査筆記試験の最終日…。
最後の科目を終え、教室には歓声と悲鳴が響いていた。

やっと…終わった……。

はー…と肺に溜まった全ての空気を吐き出すように息を付き、ティノはぐったりとイスの背に凭れた。
何とか全ての問いに答えを記し、かなり正答出来たと思う。
思うが、それでもやはり疲れるもので…。

順位…せめてキープしたいなぁ……。

そんなことを思えば、何だか憂鬱で…また溜め息が漏れた。
何しろ、オトメはとっても狭き門なのだ。
試験で連続最下位を取った者は退学になってしまうし、コーラル生からパール生に進級出来るのは約半数…。
だから、どうしても、皆順位にはかなり神経質になるわけだが…。
現在、学年3位のティノは、別に進級を心配しているわけではない。
ただ、卒業後、国王付きのオトメになりたいなんて思っている以上、出来るだけ優秀なオトメになりたいのだ。

やっぱり、トリアスを務める位じゃなきゃ…周りの人とか納得してくれない…かなぁ………?
王様って言ったら、国で一番の人だもんねぇ………。

王のオトメになるためには、どのくらい優秀でないといけないだろうか…なんて、ティノがぼんやりと考えていると、

「ぐえぇえ………撃…沈……☆」

後ろの席のフェリシアーノが、カエルみたいな声で呻いて机に突っ伏した。
その横では、兄のロヴィーノもまた同じように突っ伏しているのだが、こちらは声も出ない程に打ちのめされているといった様子だった。
「あはは、ホント、難しかったですよねぇ」
二人を振り返り、ティノがそう言って笑えば、
「またまた〜、そんなこと言って、君は余裕だったんだろ?」
アルフレッドが、何処に隠し持っていたのやら、ハンバーガーなんぞを食べながらやって来る。
「そ、そんな事ないですよぉ〜!それに、それを言うならアル君の方こそ!」
コーラル生の現主席は、何を隠そうアルフレッドなのだ。
ちなみに、次点はティノのルームメイト、エドァルドである。

「ん〜…アルもティノも、もうマスター決まってるんだもんねぇ〜。やっぱり、目標あると違うのかなぁ〜…」

ヴェ〜〜…と謎の声を発しながら、考え込むように呟くフェリシアーノ。
その言葉に、ティノは顔を真っ赤に染めた。
「き、決まってなんてないですってば!ただ、そうなれたらいいなぁ〜って…思ってるだけで…!アル君みたいに、ちゃんと決まってなんて…」
そう言えば、一斉に視線の集まったアルフレッドが、かぶりついていたハンバーガーをモグモグごくんと呑み込む。
「む、確かに僕はアーサーのオトメになるのが決まってるんだぞ☆まあ、オトメってゆーより、クイーンズナイトってゆーか…、ヒーロー的なあれだけどな!うん。でも、それだって、そもそもは子供の時の約束で…、そういう意味では君と変わりないと思うぞ?」
訳知り顔の笑顔で、オマケにパチンとウィンクひとつ。
ティノはそれにウウッと言葉を詰まらせた。

全然違うよ!絶対違う!
そりゃ、変わりなかったら僕だって嬉しいけど……。
僕とスーさんは、この話ちゃんとしたことって、あれっきりないもの…。

アルフレッドと、イギリスの王子であるアーサーは、文字通りラブラブの仲なのだ。
全寮制のガルデローベに入った今でも、アルフレッドとアーサーは結構頻繁に会っている。
それが、ティノには羨ましい限りで……。
はう…とため息を付けば、

「そう言えば、スウェーデンの新しい王様は、まだオトメと契約してないんだよねぇ〜?」

フェリシアーノがむーっと人差し指を唇に当て、思い出したようにそう言った。
「きっと、ティノのこと待ってるんだよ〜!ねぇ!」
「うんうん、その可能性は十分にあるな」
「ま、ままま、まさかっっ!そんな事ないですって!そんなの、たまたまですよ!きっと!たまたま!」
やだな、みんなして!なんて言いながら、それでもどうしても、頬が熱くなってくる。
だって、もしかするともしかして…そうなのかもしれない…なんて、自分でもこっそり思っているのだ。
何しろあの律儀なベールヴァルドの事である。
子供の戯れ言であっても、約束は約束だと、ティノの卒業を待ってくれているのではないかと…そう思えて…。

う〜…でも…、あんな昔の事…ホントに覚えててくれてるのかなぁ……。
う、ううん!きっと、ちゃんと覚えててくれてるよね!
スーさん、後もう少し…待ってて下さいね…!
僕、きっと立派なオトメになりますから!

内心また決意を新たにしつつ、エヘヘなんて笑ってしまえば。

「ティノって可愛いよねぇ〜♪」
「ああ、君は本当にオトメって感じなんだな」

フェリシアーノとアルフレッドにニヨニヨと笑われて…。
「なっ、何ですか、それ〜!」
「だって、まさに恋するオトメって感じだぞ♪」
「王様とオトメの恋か〜♪いいないいな〜♪」
「ち、ちち、ちがっ!違いますよっ!す、スーさんがそんなっ、ぼぼぼ、僕なんかっ!」
ボボンッと真っ赤に顔を染め、ティノが二人に向かってそう叫んだ時…。
突然、バンッ☆と大きな音がした。
「?!」
教室内の賑わいが、一瞬にしてピタリと収まり、全員の視線が集まる。
思い切り机を叩いて立ち上がった、ロヴィーノの元へ…。

「けっ、くっだらねぇ!」

ロヴィーノはクラス全員の顔を睨み、吐き捨てるようにそう言うと、そのままドタドタと教室を出ていってしまった。
「…何だい、あれ?」
「ん〜……兄ちゃん、最近何かイライラしてるんだよね〜〜……」
きょとんとするアルフレッドに、フェリシアーノはロヴィーノが出ていったドアを見つめて表情を暗くする。
「バイト先で何かあったのかな〜…?」
「え…、バイト?」
「うん、兄ちゃん、先月からギル兄ちゃんの紹介で、バイト始めたんだよ!」
ティノが、心配そうなその呟きを聞き返せば、途端に、いつもの明るい顔を取り戻し、フェリシアーノは頷いた。
『ギル兄ちゃん』というのは、フェリシアーノとロヴィーノがお部屋係をしているパール生、ギルベルト・バイルシュミットの事である。
「駅前のレストランなんだけどね〜、兄ちゃんにしては珍しく、ちゃんと行ってるんだ〜★」
「へえ、バイトか…面白そうだな♪その店にハンバーガーはあるかい?」
「んー、確か、何とか絶品バーガーが人気だとかって言ってたよ〜?」
「ぃよぉーし!それなら、みんなでそこに調査だ!」
「ええっっ?!?!で、でもでも…」
外出許可貰うの大変じゃ…と、不安を口にするティノ。
だが、ハンバーガーの為なら反省房行きの処分だって怖くないアルフレッドと、あまり何も考えていないフェリシアーノはすっかりその気で…。
「あ〜、それいい案だね〜!俺も気になってたし、うん、みんなで行ってみようよ☆」
「そうと決まれば、グズグズしてられないぞ!」
「え、ええええ〜〜っっっ?!?!」


かくして、3人はロヴィーノのバイト先へと調査に乗り出すことになったのだった。



※続いてます

+   +   +   +   +

てことで。
ロヴィーノの憂鬱なんてタイトルのクセに、ロヴィーノ全然主役じゃないじゃんよー!とゆー。
いやいや、これからですよ!
次は親分とお兄さんが出てくるのであります★
 
ロヴィーノの憂鬱☆ >
Update : 2009/08/24
 


「はぁ〜〜〜、ロヴィーノ、めっちゃかわええよな〜〜♪なあ、そう思わん?なあ?なあ〜って!」

「…あー、はいはい、可愛い可愛い…っつーか、お前それ何度目?いっくら恋愛にはこだわりのあるお兄さんでも、いい加減耳にタコ出来ちゃう感じなんですけど……」
レストランの一番奥のボックス席に座り、何ともかんともにやけ切った顔で、ロヴィーノを眺める男が一人…。
その男の前で、心底疲れ切った表情を浮かべているのは、やたらと派手なデザインの服を着た、金髪ちょい髭の優男で…、だが、そんな彼の耳には、マイスターオトメの証である特別なGEMがキラリンと輝いている。
彼の名前はフランシス・ボヌフォワ。
ガルデローベの五柱の一人であり、現在、要人警護の真っ最中だったりするわけだが……。


「あのさ、アントーニョ…。お前さぁ…いぃ〜加減、帰ってくんない?国のお偉いさん方だって困ってんだろ?」


その要人に向かい、かなりぶっちゃけた様子で言うフランシス。
「んー?別に平気やろ〜?ねーちゃんかておるし…あっ!こっち向いた!!おーい、ロヴィーノ〜♪」
別のテーブルを片付けながら、チラリとこちらを見たロヴィーノに、アントーニョは何とも嬉しそうな顔でブンブンと手を振った。
「っ!」
途端、ロヴィーノは真っ赤に顔を染め、プイッとそっぽを向いてしまう。
「かんわええ〜、ほら、あない顔真っ赤にして…トマトみたいや思わへん?ほんまかわええわ〜〜vvv」
「………いや、もうホント、マジ帰ってって……毎日毎日ここばっか…もうこんな任務、やだ俺…」
これ以上ない程お気楽おシアワセなアントーニョの前で、さめざめと泣き崩れるフランシス。

「うわぁ〜…フランシス兄ちゃんが泣いてるよ〜!」
「は〜〜、いつもの姿からは想像出来ませんねぇ…」

ガルデローベの先輩であり、更に五柱の一人でもあるフランシス。
生徒としては、格好良い姿を目にすることの方がずっと多いだけに、今の姿は何だか意外で…。
少し離れた席からその様子を目撃したフェリシアーノとティノは、目を丸くして見入ってしまう。
「ん〜、そうか?アイツ結構あんなだぞ」
モグモグとハンバーガーを頬張りながら、事も無げに言うのはアルフレッド。
「そ、そうなんだ?」
「アーサーとはしょっちゅう口喧嘩してるしな」
「ねーねー、あの人誰だろ?フランシス兄ちゃんと一緒にいる人…どっかで見た気もするんだけどさぁ…」
「うん…っていうか、分かってるけど信じられないって言うか……」
「あー、あれはスペイン国王のアントーニョだな。アントーニョ・フェル何とか……。フランシスとは古くからの付き合いだったはずだぞ」
アルフレッドの言葉に、フェリシアーノが目を丸くする。
「す、スペインの王様〜?王様がどうしてこんな所にいるの?」
「そりゃあ……えーと…、きっと、この絶品ハンバーガーが食べたかったからじゃないか?」
「それはないと思うけど」
アルフレッドの言葉をあっさり否定し、ティノはうーんと呻った。
「…ってゆーか、どう見てもロヴィーノ君目当てだよね、あれって…」
「ええーっ?!に、兄ちゃん、スペインの王様に見初められたって事?」
「うん、だって、あの王様、さっきっからずーっと、ロヴィーノかわええ〜って言ってばっかりだよ?」
「確かに……」
「確かに…!で、でもでも…」


「おんや〜ぁ?誰かと思えばウチの生徒じゃん!しかもコーラルのヒヨコちゃん達が、こんな所で何をやってるのかな〜?」


ハッと気付けば、3人のボックス席の横に、仁王立ちのフランシスが居て……。
「やあ、フランシス!」
「わ〜、兄ちゃん!久しぶり〜☆」
「あわわ…!」
アントーニョの護衛(?)という任務に辟易していたフランシスは、これ幸いとばかりに、ご機嫌な笑顔で3人の席に割り込んできた。
「おいおい〜テスト終わったからって打ち上げかよ?ちゃんと許可取ったのか〜?」
「む?僕は許可なんか貰った事ないぞ☆」
「え〜っと、許可って誰に貰えばいいんだっけ〜?」
「す、すすす、すみません〜〜〜っっっ!!!!」
フランシスの言葉に、ひえええっと慌てふためいたのはティノだけ。
アルフレッドとフェリシアーノは、何ともかんとも涼しい顔だ。
「うう、何て可愛い素直な反応!それに比べてお前らと来たら…。ティノ、友達は選んだ方がいいぞ!」
バッシュあたりが聞けば「貴様が言うな」とでも言う所だろう。
だが、この場にはいなかったから、ティノはアワワとまた慌て、フェリシアーノとアルフレッドは不満げに唇を尖らせた。
「え〜!俺だって素直だよぉ〜!ねえ、ティノ?」
「そうだぞ!それに、僕達は友達の身を案じて来たんだ!友情さ!決して、絶品バーガーが食べたいだけじゃないんだぞ☆」
「…お前…ホントに、脳味噌もハンバーガーになってるんじゃないか?って、友達…?」
「うん、兄ちゃんが最近ちょっと荒れてるからさ〜、俺心配で…。それで、アルフレッドとティノが一緒に様子を見に来てくれたんだよ!」
「あ〜〜……」
フェリシアーノの言葉に、フランシスは何とも複雑な思いのこもった声を漏らした。
「ねえねえ、フランシス兄ちゃん、兄ちゃんはホントにスペインの王様に見初められちゃったの?」
「お前ね〜…見てたんだろ?あれ。あの通り☆この数日、そりゃもー熱心に通い詰めだぜ〜?」
「不満そうだな?君、恋愛話は大好物じゃなかったかい?」
「そりゃ恋愛話は大好物だけどね?何の進展もねーしさ〜…飯はマズイし…、さしものお兄さんだって、泣きたくもなるってぇの!」
「えー、別に不味くないよぉ〜?そりゃ、激ウマ!ってワケじゃないけど。ねえ?」
「うん…、美味しいと思いますけど…」
「ああ、このハンバーガーはなかなかだぞ?」
顔を見合わせる3人に、フランシスは深い深い溜息を付くと、ヤレヤレとばかりに頭を振る。
「あのね、パスタとハンバーガーがあれば、それでいいってゆーお前らにゃ、これでいいかも知れないよ?けど、お兄さんの繊細かつ洗練されたお口には合わないの。うう、国に帰りたい…!とまでは言わないから、せめて店を変えたい…!」
「はぁ、要人警護も…大変なんですねぇ…」
「そらもー!お偉いさんってのは我が儘なもんだからねぇ〜…」
フウと溜息ひとつ。
フランシスは、そこでチラリと意味深な視線をティノとアルフレッドに投げる。
「まぁ、スウェーデンの王様はそうでもないだろうけどーな…、お前んトコの坊ちゃんは大変だぜ?」
「ん?まあ、アーサーの我が儘は今に始まった事じゃないからな」

わああ〜!アル君ったら、何か余裕だ…!

フランシスのからかう様な笑みも言葉も物ともせず、サラリと言ってのけるアルフレッドに感心してしまうティノ。
そして、確かに、ベールヴァルドが我が儘を言うなんて考えられない…と思ったり。

スーさんって、昔からシッカリしてたし、優しいし、誰かを困らせるような事言ったりなんて…ないよね…。
そっか…我が儘かぁ……。
我が儘言ったり、甘えたり……とか…、ちょっと見てみたいかも………。

どんな感じだろうか…と、思いを馳せれば、ちょっとポッとしちゃったりなんかして。
「あ〜!何かティノが乙女っぽくなってるよぉ〜!」
「ははーん、さては、僕も我が儘言って欲しいかもvvとか思っちゃってるな〜?ほれほれ、お兄さんに正直な所を話してみなさい♪」
「えぇえええ〜〜っ?!?!そ、そそそ、そんな事、おお思ってなんかぁ〜〜っっ!」
「ノンノ〜ン♪隠したって、お兄さんはお見通しだぞ〜♪」
「おひぇえええ〜〜〜!か、隠してないですよぉ〜〜っ!」
「お見通しだぞ〜♪あはは、ティノ真っ赤!可愛い〜っ♪」

「なあ、フランシス…。アントーニョ様、ロヴィーノについて出てったけど…いいのかい?」

フェリシアーノと一緒にティノをからかって喜んでいるフランシスに、少しの間余所を見ていたアルフレッドは、手にしたスプーンをヒラヒラさせながら尋ねた。
彼の前には、いつの間にやらアイスクリームの皿が何枚も重ねられている。
だが、それに突っ込める余裕は、今のフランシスにはなく…。
「何ぃっっ?!?!ばっ、いいわけねーだろ!あのバカ国王っっ!!!!」
慌てふためいてボックス席から飛び出す。
「わ〜、フランシス兄ちゃん、頑張ってね〜!」

「お前らも早く帰って寝ろよ!踏破試験、ナメてかかると痛い目みんぞ!」

フェリシアーノの気の抜ける様な応援にヒラヒラと手を振り、フランシスはそう告げてから、店を出て行った。
「はっ!そう言えば…っ!」
「あ〜そっかぁ、明日遠足だったねぇ〜!」
「ああ、そういや、まだそれが残ってたんだな…」
フランシスの残した言葉にハッとする3人…。

コーラル生の最初の筆記試験の翌日にある長距離踏破試験……。
遠足なんて呑気な別名とは裏腹に、何とも過酷な内容で…、リタイアする者も多く、それに纏わるエピソードも多く残っている為、新入生達に恐れられている恐怖の実地試験なのだ。

「か、帰ろうか…?」
その恐怖の試験が明日だという事を思い出し、表情を暗くするティノ。
「ん、そうだな。もうロヴィーノも帰っちゃったしな!」
「あ、そうだよね〜!兄ちゃんったらもー!」


かくして…。
3人の『調査』は、成果があったのかなかったのか微妙な感じで、それでも調査対象が帰ってしまった為に、とりあえず終了したのだった☆



+   +   +   +   +

あれ。
親分より兄さんのが出ばってるな…。。。

夏コミ前日にナイト・ミュージアム2を観に行ったんですが、ナポレオンが兄さんに見えてしょうがなかった(笑)
いや、兄さんはもっと格好いいんですが!!!
ノンノン野郎とか言われてて、マジで笑いました♪

次の次からは踏破試験に入るであります☆
 
ロヴィーノの憂鬱☆ >
Update : 2009/10/15
 


「なーなー、ロヴィーノ〜、ロヴィーノちゃ〜ん、ロヴィーノ・ヴァルガスちゃんってば〜」

足早に歩くロヴィーノを、脳天気なアントーニョの声が追いかける。
「うっせえ!勝手に人の名前連呼してんな!殺すぞコノヤロー!」
「ちぃっとくらい話聞いてくれてもええやんか〜、なあなあ♪」
「やだ。聞かねー。っつーか、付いてくんなよ!マジで変質者だって警察突き出すぞ!」
思いっきり睨み、素っ気なく酷いことも言ってみるのだが、アントーニョが気にする様子はなく…、脳天気で幸せそうな笑顔のまま…。
「いけずやなぁ〜、でもそこがまたかわええねんけど♪」
「気色悪ぃー事言うなって言ってんだろ!バーカ!」
バーカバーカと子供のように言うロヴィーノ。
その腕が、ふいにガシッと掴まれて…。
「何だよっ!」
驚いて振り向けば、そのままグイッと強く引かれた。
痛いほど強く…バランスを崩すほど…強く……。
「うわっ?!」
倒れ込んだ先はアントーニョの腕の中で…、フワリと感じた体温と、鼻腔を擽るスパイシーで甘い香りに、一瞬、頭が真っ白になる。

な、何…、何…だ…?
何だこれ…何で……?

「なあ、ロヴィーノ、俺のオトメにならん?」

笑み混じりの優しい声が、耳元でそう囁いた。
耳を疑いたくなるようなその言葉…。

オトメ…?
俺が…、いや、俺を…オトメ…に……?
誰の…?コイツの……?
でも、だって…コイツって………。

唖然としてアントーニョを見つめたまま、パクパクと口を開閉して。
「な…に…、お前…」
やっとの事で絞り出した声は、喉に張り付いたみたいに掠れていた。
「どや?」
ニコッと太陽みたいに明るく笑うアントーニョ。
「ば…、バッカじゃねーの?!そんなの…、信じる程ガキじゃねーっつーの!」
「あれま、ウソや思うてるん?傷つくわぁ〜」
「!」
戯けて言った途端、バチンと頬を叩かれる。
驚きにパチクリと瞬きをして、アントーニョは俯いているロヴィーノを見つめた。
ぎゅうっと唇を噛み締めているロヴィーノは、何やらとても辛そうで、悲しそうで…。
「ロヴィーノ…?どしたん?」
「お、俺、知ってるんだぞ…!お前、スペイン国王なんだろ?そんな大国のトップが…、何で…俺みてーなのなんか………!信じれるわけ、ねーだろっ!」
ロヴィーノの言葉に、アントーニョが「ん〜…」と呻る。
「どうせ…、からかってるだけのクセして!分かってんだからな、チクショー…」
今にも泣きそうな顔で、むううっと自分を睨んでいるロヴィーノ。
アントーニョは少し首を傾げ、今までとは何処か違う柔らかな笑みを浮かべて彼を真っ直ぐに見つめた。

「なあ、ずっと一緒にいたいって…思ったら…あかんかな?」

「は…?」
その言葉に、ドキリと鼓動が跳ねる。
それは、オトメにならないかと言われた時よりも、ずっと大きく…。
「俺は、ロヴィーノとずっと一緒におれたらええなぁって思うとるよ」
「な、なな、何…言って…!」
「せやから別に、オトメやのーてもええねんで?うん、ロヴィーノなら、俺は何でもええ!」
ニカッと、また太陽みたいな、青空みたいな、子供みたいな笑顔。
キラキラしたライトグリーンの瞳は見つめていれば、吸い込まれる様な感覚を覚えて…。
ロヴィーノは慌てて顔を逸らした。
「なんだよ、それ………」
「だって、ロヴィーノかわええやんか♪」
「…は?」
「ロヴィーノがずーっと一緒居てくれたら、俺めっちゃ幸せやと思うしな〜♪毎日楽園みたいやんな〜♪せやから〜〜、なあなあ、どない?」
なあなあ?と聞いてくる顔は、ムカツク程の脳天気さ。
ロヴィーノはアントーニョの頭をぽかっと殴ると、そのまま駆け出した。


「…ばっ、ばぁーーーっっかっっ!お前の幸せなんか知るかっ!さっさと国に帰っちまえ!チクショー!」


数メートル先で振り返り、そう叫んで…また駆け出す。
今度はもう脇目も振らずまっしぐらに……。

「あーらら、見事にフラれちゃったねぇ〜?」

そう言って、ニヨニヨ笑いながら近付いたのはフランシス…。
彼は近くでずっと二人の成り行きを見ていたのだ。
「だからいつも言ってるだろ?…って…お前……」
全く…なんて、諭す様に語り出そうとしたフランシスだったが、アントーニョの肩が僅かに震えているのに気付くと、少しだけ表情を改めて、軽くポンッとその背中を叩いた。
「ま、まあ何だ。ほら、アイツまだガキだしさ…、ビビッちまってんだよ、な?」
「……ロヴィーノ…」
「おいおい、泣くなよ〜?お前もう王様だろ〜…って……」

「ほんっっっま、怒ってもかわええよなぁ〜〜〜〜♪♪♪」

振り返ったアントーニョは、全然、全く、これっぽっちも、泣いてなんかいない。
ぽわぁ〜んと…舞飛ぶ花やハートや星なんかが目に見える位、お幸せな顔で…。

「………いや、お前ちょっとくらい懲りろよ…。そんでもう国帰って、ホント…」

フランシスの世にも哀れな声が、夜の公園に響いたのだった。


 
ロヴィーノの憂鬱☆ >
Update : 2009/10/15
※続いてます。
 


ちくしょーちくしょーちくしょー…!
何なんだよ、あいつ……!!!!

走って走って走って。
学園に辿り着き、通用門をくぐってようやく、ロヴィーノは足を止めた。
ゼイゼイと苦しげに息を付き、額に滲む汗を拭う。

「っくそ……全部、アイツがわりーんだ…」

そう呟けば、すぐ近くの茂みがガサガサ音を立てたから、ロヴィーノは驚きのあまり少し飛び上がった。
何だ?と見ていれば、茂みから顔を出したのはギルベルトで……。
「お?よお、今バイト帰りか?ロヴィーノ」
彼はロヴィーノに気付くと、気軽な様子でそう声をかける。
「……て、てめぇ…何でそんなトコから出てくんだよ…っ!」
「あ、ビビらせちまったか?悪ぃ悪ぃ」
「なっ!だ、誰がっ!俺はビビってなんかねぇぞ!コノヤロー!」
真っ赤に顔を染めてそう言う様は、どこからどう見ても図星でしたと言わんばかりで可愛らしい。
「お前って、フェリちゃんとはまた違った意味で可愛いよな〜♪」
「きっ、気色悪ぃーコト言うなっっ!俺は可愛くなんかねぇぞ!コノヤロー!…ったく、どいつもこいつも……」
「ん?どいつもこいつも?何だよ、さては変質者にでも追っかけられたか〜?」
ケセセと笑われ、ロヴィーノはムッと顔を顰めた。
「うるせぇ!とっととどっか行きやがれ!」
「流石、フェリちゃんのお兄様ってとこか♪まあまあ、変質者なんか俺様が追っ払ってやってもいいぜ?何せ俺様は最強だからなーーっっ!」
「言ってろ、ばーーか!」

変質者だったら、俺がぶっ飛ばしてるっつーの!

ブツブツと心の中で呟きながら。
ロヴィーノはギルベルトに背を向けると、足早に寮への道を歩き出す。
「……チクショウ…」
何だか胸がモヤモヤして、苦しくて堪らない。
そのモヤモヤは、ここ最近ずっとロヴィーノの胸に蟠っていて…、それも日増しに大きく重くなっているようで……。

『なあ、ロヴィーノ、俺のオトメにならん?』

アントーニョの言葉を思い出せば、胸にズキリと鋭い痛みが走った。
何をバカなことをと思う。
だってそうだろう、王のオトメはマイスターオトメが務めるものだ。
オトメの命は主の命。
王と命を共にする者だから、オトメの中でも特別に優秀なオトメがその役を担うのは当然で…、進学すら危ないラインにいる自分など、問題外である筈だ。
だというのに…。

『オトメやのーてもええねんで?うん、ロヴィーノなら、俺は何でもええ!』

スペインの王であるアントーニョは、あっけらかんとそう言ってのけた。
オトメでなくともいいから、ただ、ロヴィーノに側にいて欲しいと……。
「アイツ…ホントバカ過ぎ……」

ギュッと抱き締められた時の温もり…。
包み込まれた時に漂った、スパイシーで甘い香り。
あの時撥ねた鼓動は、一体どちらの物だったのか…。

思い出せば、どうしても鼓動が早くなり、胸がざわついて……。
「……オレも…ホントバカだよな……」
溜息混じりに呟くと、ロヴィーノは寮へ続く階段を駆け上がった。



※続いてます

+   +   +   +   +

あれ…終わらなかった……。。。。
ロヴィーノの憂鬱、もうちょっと続きます。

(…ので、踏破試験は別に始めよう…(え))

踏破試験は典芬と親分子分なのです!!!!

親分大好きですvvv
お兄さんも大好きですvvv
でも、スーさんがやっぱり一番大好きですvvvv(そりゃな)

ってなわけで、スーさんが書きたいんだぜーーー!!!!!

 
ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2009/10/19
※続いています
 

「それでは、踏破試験の概要を説明する!」

バッシュのキビキビとした声が、晴れ渡った空に高く響く。
踏破試験はその別名の通り、学園を遠く離れ、他国の島を借りて行われるのが習わしだ。
その開催地は毎年変更され、今年の舞台はイギリス領の外れにある島で…。
海岸線の一部はリゾート地として開発されているが、その奥には手つかずの自然が広がっており、山あり谷あり猛獣ありという、なかなかうってつけの試験会場であった。

この島で、試験は3日に渡って行われる…と言っても、初日の今日は現地までの移動と説明だけで、実際の試験は明日からである。

…のだが、説明をするバッシュの前には、ガルデローベのコーラル生全員が、後ろにはパール生のトリアス3名、教職員数名、更に何故だか来賓のお方々まで…かなりの大人数がズラリと揃っていた。


う、わあ〜〜!
わああ〜〜〜わあああああ〜〜〜〜!!!!!


「この踏破試験は、2人一組のペアでゴールを目指すものである!距離は直線で100キロ。ローブの使用は不可とする。装備の中には………」
これから行われる試験について、かなり重要な諸々の説明をしているバッシュ。
だが、そんなものは何一つ、ティノの耳には届かなくて………。
今日はもう何度、心の中で叫んだか…。
だって、先程からずっと、ビシビシ突き刺さって来る、痛い程に鋭く熱い視線…。
ティノはそちらを見るどころか、顔を上げることすら出来ず、ずっと俯きっぱなしで…。
何で何でどうして〜?と焦りまくり、ソワソワしていれば、ツンツンと軽く背中をつつかれた。

「ねぇねぇ、スウェーデンの王様、さっきからずーーっと、ティノのこと見てるね♪」

フフフ〜と何やらとても嬉しそうな顔で、コッソリそう言うフェリシアーノ。
そう…。
教職員の後ろにズラリと居並ぶ来賓の中には、何故だかしっかりベールヴァルドの姿もあったのだ。
そして、例によって例の如く…彼の瞳はじじじぃっとティノを見つめているから…。
「そ、そんなことないよっっ!!!!」
「いや、あれはまさに、ロックオン☆って感じだぞ!」
「うんうん、すっごいよね!ビーム出そうだもん!」
「ああ、本気で穴でも開きそうだ…って…いや、ああ、そうか!ズバリ開けたいのか…」
「うっわ〜〜!アルったらエッチ〜!」
きゃー☆なんて喜ぶフェリシアーノの横で、ティノは「穴?」と首を傾げた。

スーさんが穴を開けたい?僕に???

「お、隊員Bは分かってない様子でありますぞ!隊長!」
「君はホントに純真オトメだな♪からかい甲斐があるのかないのか…」
きょとんとしているティノにニヨニヨと笑い合う二人。
「えーっ、ちょっと何なの、二人とも…」
「フフ〜、隊長殿、ティノはまだまだお子様でありますな☆」
「うーん、今度ちゃんと教えておかないと、彼が可哀想なんだぞ」
「え〜…もうホントに何なの?僕がお子様だとスーさんが可哀想って…、そもそも…スーさんが僕に穴なんて…………って……」
むむーっと顔を顰めてブツブツ呟き、そこでようやくハッと気が付く。

「お、おひゃーーーーっっ☆な、ななな、何て事言うのーーーーーっっっっ!!!」

アルフレッドの言葉に、思わず叫んでしまえば、みんなの視線が一斉に集まった。
「何事だ?ティノ、一体どうしたのであるか?」
バッシュの鋭い問いかけに、ティノは顔を真っ赤に染めて…。
「あっ、あああの、い、いえ、何でも…ない、です…。すみません……」
消え入りそうな声で、そう呟いた。
「アルフレッドとフェリシアーノも煩いのである!この踏破試験は、遠足などと呼ばれているが、実際には毎年リタイアする者が多数出る過酷な試験なのだ。浮かれ気分で臨めば思わぬケガもしよう。皆、心してかかる様に!」

あああ、もうもうもう!アル君とフェリ君のバカぁ〜〜〜っっ!!
スーさんが見てるのに…!!!!
っていうか、穴…って、穴…、穴………!!!!
スーさんが、そんな…あ、開けたいだなんて……何て事を…っっっ!!!!!
そんな事あるわけないじゃないかーーーっっ!!!!!

言われたことの意味が、分かってしまった自分も自分だと思うが。
とにもかくにも、こんな場だというのに、うっかり『ソノコト』をよくよく考えてしまいそうになって、ティノは真っ赤に染まった顔を俯かせた。
すると、その落とした視線の先に、フッと影が差して…。

「フィン、なじょした、おめ?」

よく覚えのある、そして、ティノが聞きたかった声が上から降ってきた。
「へ……?って、おひぇっ?!す、スーさんっっ?!?!?!え?え?何で、あれ?あれ?ええええ??」
いつの間にやら目の前にいた人物に、飛び上がりそうな程驚きながら、ティノは慌てて周囲を見回す。
気付けば、どうも少し前に散会したらしく、テントを張る準備をする者や、二人のように話をしている者など、バラバラで…。

え、えぇえええええ〜〜〜っっ?!?!?!
い、いつの間に…?!
って、みんな酷いよ!!!!!声掛けてくれないなんて〜〜〜っっ!

置いていっちゃうなんて酷い!と思うが…。
散会と同時に、真っ直ぐティノを目指して来たベールヴァルドの気迫が恐ろしかったのだから仕方がない。
しかも、親友達にしてみれば、気を利かせたつもりなのだから、感謝されこそすれ、酷いと恨まれる覚えはないのである。

ってゆーか!!!!
ち、近いっっ!
近いですよぉ!スーさぁんっっっっ!

「…顔、赤いんでね?」
そんなことを言いながら顔を覗き込んできたベールヴァルドに、ティノはぎょぎょっとして思わず後ずさった。
「い、いえ、あああの、へ、平気ですっっ!」
「そ?」
顔が赤くなってしまうのも、こんなにドキドキしてしまうのも、全てベールヴァルドのせいだというのに…。
本人はそんなこととは露知らず、酷く真剣な顔でティノの様子を伺う。
「はいっ!あ、あの、すみません、僕…向こう、行きますねっ!準備しなくちゃ…!」
「ん、そっが」

わ〜〜んっ!
ぼ、僕ったら何て勿体ない事を…!!!!
折角、折角、スーさんが話しかけに来てくれたのに!
ああ〜でもだって!全然、心の準備がさ〜〜!
スーさんが視察に来るなんて思ってなかったし…!
久しぶり過ぎて、何かまともに顔見れないってゆーか…!
ああ、でもでも、ホントはもっとちゃんと話したりしたいのに…!!!!!
うううう………スーさぁん〜…。

チラリと振り返れば、じっとこちらを見ているベールヴァルドと目があって…。
「っっ!」
ティノは勢い良くぺこんっとお辞儀をすると、みんなの元へ駆けていった。


※続いています

+   +   +   +   +

ってことで、踏破試験が始まるのでございます!
フィンとスーさんが同じところにいるって素晴らしい!!!!

つか、どんなに熱視線向けられても、自分は片想いだと思っているフィン。
きっと、スーさんは誰に対してもジーって見ると思ってるんだぜ!
オ マ エ だ け だ !!!!
 
ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2009/10/23
※続いています



「だーっからぁ、なーんでここ来てまでお前と組まなきゃなんだよ!」
「そんなこと言ったって、兄ちゃんと俺、成績一番違いなんだもん」
「そんなの知るかチクショー!」
「も〜、我が儘言っちゃだめだよ〜、決まってるんだから…」

ティノがみんなの元に駆け寄ると、ヴァルガス兄弟が何やら言い合いをしているところで…。

「ねえ、エド、あの二人は何をモメてるの?」
近くにいたエドァルドに尋ねれば、彼はヤレヤレと言いたげに肩を竦めた。
「ん〜、明日の組み合わせが、兄弟一緒なのが嫌らしいね」
「へえ…?珍しいね…??」
入学当初からいつも一番違いで…、何かと一緒に組まされている二人である。
ロヴィーノがそれに不満を言ったことなど、今まで一度もなかっただけに、何故今日に限って…と、それが不思議で。
「何か…最近荒れてるみたいですね…、彼…」
昨日、「くっだらねぇ」と吐き捨てて教室を出て行った姿を思い出してか、エドァルドが心配そうに顔を顰める。
「何かあったんですかねぇ…」
「ん〜〜…。バイトのせい…なのかなぁ……?」
っていうか、あのスペインの王様のせい?と、ティノはアントーニョののほほ〜んとした顔を思い浮かべながら…。

あの後…何かあったのかな……。
ロヴィーノ君、何か昨日よりも荒れてる感じがする…っていうか………。
そう言えば、アントーニョ様も来てたっけ…?

先程、説明を受けている時に、アントーニョの姿も見た様な気がしたが、定かではない。
だって、ティノはベールヴァルドのことで頭も胸もいっぱいで、周りを気にする余裕など、なかったのだ。
エドァルドとティノが、揃って首を傾げていれば、
「ま〜ったく、仕方ねーな…ロヴィーノの奴……。バッシュに叱られんぞ?」
バリバリと頭を掻きながら、呆れたようにフランシスが呟いた。
そして、

「ティノちゃん、わりーんだけどさ、アイツと組んでくれない?フェリシアーノ、オマエはノルとな」

悪いんだけど、と断っておきながら、こちらの意志は聞かないで。
フランシスは勝手に組を変えてしまった。
「え?ええっ?僕がロヴィーノ君と?」
ロヴィーノもフェリシアーノも友達で、好きではあるが、出来たら機嫌の悪いロヴィーノに近付くのは遠慮したいかも…というのが本音のティノである。
逆にしてくれればいいのに!と思ってフランシスを見上げれば、この年上のお兄さんは、悪戯っぽくウィンクをして寄越した。

「ま、恋するオトメ同士だしさ、アイツの話、聞いてやってよ☆」

「な…!こ…っっ、恋する乙女って…!もう、フランシスさんまでからかって!!!」
「え〜、マジな話だぜ〜♪♪っつーか、それよりも…お前はいいのか?」
「……何がですか?」
ふいに真面目な顔でフランシスが聞いてきたので、ティノもまた真面目な顔になって聞き返す。
「ベールヴァルド様…今夜はあそこに泊まるんだろ?お前、行かないの?」
そう言って、示す先にはリゾートホテルの一つ…。
生徒達は今夜からテントで宿泊するのだが、来賓は勿論、そんな事はなく…。
海岸沿いのリッチでゴージャスなホテル郡に、それぞれ宿を取っているのだ。
「え……☆」
フランシスの言葉に、ティノは一瞬ポカンとして…。
「い、行けるわけナイじゃないですかぁーーーーっっ!!なな、何言ってるんですか〜〜!!!」
それからボボンッと爆発でもしそうな勢いで、真っ赤に顔を染めた。
「あれ?何だ、そうなの?」
「何だ、そうなの?じゃないですよ!!!」
あまりの事に目眩がしてくるティノだが、フランシスはニヨニヨと笑いながら、ズイッと間を詰めてきた。
「アルフレッドはもうとっくにアーサーの部屋だぜ?」
「え……」
言われてみれば確かに、いつの間にやらアルフレッドの姿がない。

えええええ〜〜〜〜?!?!?!
って、そーゆーのアリなの?!?!?!学園側公認?!?!?!
団体行動とかそーゆーのはいいの〜?!?!?!
ってゆーか…アル君……そっか……そーなんだ……うわわわ〜〜〜〜…!

ウッカリ『いいなぁ』とか思ってしまy自分が恐い。
ティノがドギマギしていれば、
「ティノちゃんも若いんだからさ〜、遠慮ばっかしてないで、押し掛けちゃう位の情熱があったっていいと思うぜ?」
なんて、そそのかす愛の国のお兄さん。
「い、いやいやいや!遠慮とか情熱とかじゃなくて…、普通に無理ですってばっっ!!」
「だーいじょーぶ、だーいじょーぶ!ベールヴァルド様だって国離れてリゾート気分だって♪久しぶりなんだろ?喜ぶぜ〜?」
「そ、そんな…、でも…だ、だって……」

ズダーーーーン☆

突如響く銃声。
フランシスの笑顔が凍り付く。
そこにゆっくりと歩み寄り、
「何をしているか?フランシス…」
バッシュは銃を仕舞いながら、低い声でそう尋ねた。
「ちょ、おま…、聞く前に撃つなよっっっっっ!って、服!服に穴空いてるからっっ!!!!」
「煩い。次は額のど真ん中に開けてやるから、覚悟しておけ」
「わ〜、バッシュちゃんったら恐〜い!」
「ティノ、こんなふしだら髭男の言うことを聞いてはならんぞ!まったく、コイツが五柱を務めているなど…絶対に何かの間違いである…!」
「ふっふーん♪真祖様はお目が高いのさ♪そもそも、女性は皆、お兄さんのこの美貌が…」
「下らん事を言っていないで、いいからさっさと任務に戻るのである!」
ズルズルズル…と。
バッシュに引きずられて行くフランシス。

「あーあ、兄ちゃんも大変だね〜…」

それを、あわわ…なんて思いながら、ティノが見送っていれば、ふいにフェリシアーノが後ろから声を掛けてきた。
「え、う、うーん…、まあ……」
バッシュとフランシスはどっちの方が大変だろうか…なんてチラリと思い、曖昧な笑みを浮かべれば、フェリシアーノはにぱぱ〜と、いつも以上に嬉しそうな笑みを浮かべて……。
「どうしたの?フェリ君?」
「えへへ〜、ねえねえ、それでティノはどうするの〜?」
「え?」
「俺はねぇ、折角なんだから行った方がいいと思うな〜、だって、こんな機会って滅多にないよ?」
フランシスとの会話を聞いていたのだろう。
小首を傾げて可愛らしくニコッなんて笑うフェリシアーノに、けれど、ティノはウッと言葉に詰まる。
「い、いや、でも…、だって…来賓の方の泊まってるトコに押し掛けるなんて……やっぱり迷惑だよ!」
「そんなことナイと思うけどな〜。だって、さっきだって話しかけてきたのはベールヴァルド様の方だったじゃないか」
「う……うん…、まあ、それはそうだけど…」
「なのに、ティノったら全然喋らないでこっち来ちゃうし…王様、きっとティノともっと話したかったな〜って思ってるよ〜」
「えぇえ〜〜、そ、そんな事ないよ〜〜!」
とんでもないと手を振りながら、でもでもとティノ自身の心が声を上げる。

でもでも、もしかしたら……。
そうだよ、フェリ君の言う通り、スーさんの方がわざわざ話しかけに来てくれたんだもの……。
それって…スーさんは僕と話したいって…思ってくれたって事なんじゃない?
そうだよね、ちょっとくらいでも…思ってなかったら、わざわざ来てくれたりなんて……。

「それに…俺、思うんだけどね〜」
「え?」
「王様がどうこうじゃなくて、ティノがどうしたいかって方が大事なんじゃないかな〜?」
ヴェーヴェーと謎の声を発しながら言うフェリシアーノ。
言われた言葉が、ガツンとティノの心に響く。

僕が……どうしたいか………。

「フランシス兄ちゃんじゃないけど、俺達若いんだからさ。ホント、遠慮ばっかしてないで、押し掛けちゃう位の勢いがあったっていいと思うんだよね〜。兄ちゃんは情熱って言ってたけどさ、ねぇ?」

自分がどうしたいかなんて、思ってはいけないと思っていた。
思っても、表に出してはいけないと…。
だってベールヴァルドは王様なのだ。
如何に名家の息子とはいえ、もう次元が違うのだとそう思ってしまったから。
会いたいとか、話したいとか…そんな事はもう、望んではいけない事なのだと……思っていた。

だから、側にいる為には、マイスターオトメにならなければと……そう…いつからか何処かでそんな風に思っていたのだ。

でも……いいのかな…。
まだオトメになれてないけど……。
でも……友達だった事に変わりって…ないよね…?
友達だったら…話したり会ったり…したって…………。

「僕と…スーさんは……子供の頃からの知り合いで…時々だけど、会って…いろいろな事話してたんだ……」
「ほえ?」
ふいに語り出したティノに、フェリシアーノは少しだけ面食らって…。
「だから…、友達として…会いたいとか、話したいって思っても……変じゃない…かな…?」
けれど、続いた言葉を聞くと、満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
「うん、全然変じゃないよ!だって当たり前のことだもん!」
「……ありがと、フェリ君…!僕、行くだけ行ってみる…!」
「うん、頑張ってね!」
ポンッと背中を叩けば、それに押される様にして。
ティノが駆け出す。
「ごめんね、テントとか、全然やってないんだけど…」
「気にしないでいいよ〜♪後でいっぱい話聞かせてね〜!」
「う、聞かせる様な事なんて何もないったら…!」
もう!と呟いて、頬を赤らめるティノ。
それでも、走って行く後ろ姿は、心なしか嬉しそうに見える。

でも、友達として…じゃない方が、王様は喜ぶと思うけどね〜…なんて…。
まあでも、一歩前進だよね〜〜♪

「明日、隊長殿に報告せねばでありますな♪」
おちゃらけた独り言を、遠離るティノの背に向かって呟いて…。
フェリシアーノは満足そうに笑うと、ロヴィーノたちの元へ戻っていった。


※続いてます

+   +   +   +   +

踏破試験の話なのに、踏破試験に入らないな…。
ホントはこことかすごい短くて、1頁使う程じゃなかったんですが…、何か書いてる内に多くなっちゃった。
次はスーさんサイドで1頁。
その次からですね、試験は。

 
ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2009/10/27
※続いています


「言いそびれちまったなぃ…」

案内された部屋で一人になると、ベールヴァルドは溜め息混じりにそう言った。
窓辺に寄れば、テントを張るガルデローベの学生達が辛うじて見える。
ティノの姿を見つけられないだろうか、なんて目を凝らすが、遙か下界の学生達は、誰が誰と判別できるようなサイズではない。
それに元々、ベールヴァルドは目が悪いのだ。
「……ん〜……降りて行っだら…迷惑だべか…」
呟いて、ムムと眉根を寄せる。

本当はさっき、少し話せないかと聞いてみるつもりだったのだ。

このひと月あまり、かなりの激務をこなしたお陰で、今日からの3日は、完全にフリーの予定なのである。
仕事を、城を離れ、ティノの側で過ごせる3日間…その為に、頑張ったというのに……。

久しぶりだったからなぃ……。
何か、顔見だら…全部忘れちまっで…。

いつも、めんげ過ぎる!と思っているティノの愛らしい顔を思い出せば、きゅうんと甘い痛みが胸を貫いた。
やはり、行ってみようかと思う。
何しろ、明日はテスト本番…。
明後日ゴールするまでの間は、邪魔をするわけにはいかないのだ。
となれば、ゆっくり話せるのは今夜だけと言うことになるわけで…。
「んー…、んだなぃ…」
ベールヴァルドはコクリと頷くと、部屋を出た。
時間は限られているのだ。
迷って過ぎ去る時間など、勿体ない以外の何者でもない。

団体行動さ乱すわけにいがねって言うかもだげっちょ…、まあ、そん時はそん時だなぃ。

そんな風に思いながら、専用のエレベーターで一気に下まで降り、ホテルを出てみれば…そのすぐ目の前で、ウロウロしているティノを発見する。
「あ…っ!」
「!」
互いの姿を、殆ど同時に見つけ、二人は目を丸くして…。
「おめ…、なした?」
「あ、ああああの、いえ、僕はその……たまたま…っていうか、ええと、す、スーさんこそ、どうされたんですか?」
「ん……俺は…おめに…」
言いかけて、少し迷う。
もしかすると、ティノはここに何か用があって来たのかもしれないのだ。
それなのに、自分が「話がしたい」等と言えば、ティノは気を遣って、用事があると言い出せないかもしれない。
「え…?」
「…おめに…会いに行ぐとこだった」
それでも、正直にそう言ってみれば、ティノはただでも大きな瞳を更に更に大きくして…。
「え、ぼ、僕に?」
ベールヴァルドは険しい顔のまま、スイッと目線を逸らした。
「ん…げっちょ、何か用事あんなら、気にしねぇでえぇがら…」
「なっ、ないですよっ!!!用事なんて、全然ナイですっっ!」
「本当?」
「本当です!っていうか、僕……僕も、ホントは…スーさんに会いたくて…」
「!」
ティノの言葉にドキリと鼓動が跳ねる。
自分がティノに会いたかったように、ティノもまた自分に会いたいと思ってくれていたのか…。
そう思えば、カーッと心の奥底から沸き上がる、何か強くて熱い物…。
だが、一気に険しくなったベールヴァルドの顔を見て、ティノは大慌てで両手をバタバタと振って見せた。
「あぁっ、いえ、そうじゃなくてって、あ…いや、そうなんですけど!そ、その、ほら、何て言うか…っ!ガルデローベ入ってから全然ゆっくり話せてないですしっ!さっきは何か僕、久しぶりだったから、ちょと驚いちゃって…」
「ん」
俺もだとベールヴァルドは頷く。
さっきはそう、あまりにも久しぶりだったから…逸る気持ちのまま話しかけた物の、心の準備など出来ていなくて……だから、言いたいことを忘れてしまって…。
「ホントは…ずっと、スーさんと話したくて…、いろいろ話したい事いっぱいで…、だけど…ダメだって思ってて、だから、ですね…っ、だから、何て言うか…っ、僕……」
ティノの大きな葡萄色の瞳が、ジワジワと潤み出す。
「ティノ、おめ…」
「あ、あれ?うわ、何か…何だろ…、やだな…何で僕泣いて…」
そのままポロポロとこぼれだした涙に、最初は面食らった様子のベールヴァルドだったが、すぐにぷすりと小さく笑った。
「おめ、相変わらず…泣き虫だなぃ…」
手を伸ばし、ティノの髪に触れて…。
何だかシミジミ言ってしまえば、
「な、泣き虫なんかじゃないですよぉ!ただ、何か…何て言うか……っ」
慌てたようにそう言って、ゴシゴシと涙を拭うティノ。
だが、一度溢れ出してしまった涙は、簡単には止まらないようで…後から後から滲んでは、ポロポロと零れるから。
ベールヴァルドはそっとティノを引き寄せた。
自分に比べて大分小柄なティノ。
抱き締めれば、スッポリと腕の中に収まって…何やら堪らずキュウンとなる。

やっぱり、フィンはめんげぇなぃ…。

初めて見た時からずっと、これ以上ない程愛らしいと思っていた。
それは十年近くが経った今でも、全く変わることなく…。
それどころか益々…なんて…。

「す、スーさんっっっ?!?!ちょっ、ぬ、濡れちゃいますよっ!じゃなくて、ああああの…っ」
「泣かねぇでくなんしょ」
「うぇええっ?!?!だ、大丈夫ですよぅ、もう!」
アワアワするティノがまた可愛すぎて、大丈夫ですと言われても離す気になどなれない。
このままずっと抱き締めていられたら…なんて、ついつい思ってしまう。
「フィン、部屋さ来ね?」
ぎゅうぎゅうと抱き締めたまま、ベールヴァルドはそっと尋ねた。
「え、えぇええええっ?!?!」
「ダメ?」
「いや、いえ、その…、逆に…、いいんですか?僕なんかがお部屋に伺っても…?」
「ん、来てくなんしょ。久しぶりにゆっぐり話してぇし」
「……えとえと、じゃあ…、あの……お言葉に…甘えまして…、お邪魔したいです…」
「そ?えがった」
コクンと頷き、ティノを離して…けれど、手だけは離さずに。
「こっちだ」
その手を引けば、ティノは真っ赤に染めた顔を俯かせた。
「あ、はい…っ!」
はにかんだような笑顔が、また何ともかんとも『めんげぇ』から…。
ベールヴァルドはじいっと見つめたままで…。

かくして、二人はエレベーターに吸い込まれていったのだった。



※続いています

+   +   +   +   +


ってことで。
残念ながら、この後何もない二人であります。
(最初に思い付いたのが「スーさんのオトメ」だったので……。。。。ちぇ)
それでも許される範囲でラブ度上げようと思ってるんですが(笑)

次からホントに試験に入ります。
 
 
ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2010/11/11
※続いてます。



「ティノってばご機嫌だねぇ〜♪」

起きてからずっと、何をしてもシアワセ笑顔が止められない様子のティノに、こちらもニヨニヨ〜と嬉しそうな顔で、フェリシアーノが近寄ってくる。
「ええ〜、そう?」
「うん、すっごく嬉しそうだよ〜♪あ、もしかして、夕べは王様のお部屋にお泊まりしたの?」
「えっ、うえぇええっ?!?!?!ま、まさかそんなっ!お、おお、お泊まりだなんて!するわけないでしょっ?!?!」
フェリシアーノの言葉に、流石に目を剥き、とんでもない!と慌てて手を振るティノ。

「あれ、そうなの〜?何かもったいない感じだねぇ…でも、イイコトあったんでしょ?」

だが、そう聞けば、見る間にその顔がにやにや〜とにやけて来て…。
「えへへ♪いーっぱいお話し出来たんだ♪」
モイ〜ン★と、花でも星でも舞い散るような、それはそれはシアワセいっぱいな満面の笑みになった。
「ヴェ〜…?お話だけ?」
「そ、そうだよ〜!もう!スーさんと僕は友達なの!それ以上じゃないんだから!それに、お話だけって言うけど!王様と二人きりでお話しするなんて、そうそう無い事なんだからね!」
「ふーん?」

ていうか、スーさんも僕と話したいって思っててくれたとかさ…。
お部屋に入れて貰えたり、ぎゅうって抱きしめられちゃったり、何か…すごく…すごかったな、何か…。

「…幸せそうだねぇ、良かった♪」
えへへ〜とまた極上の笑みを浮かべるティノに、フェリシアーノもにっこりして…。
「うん、フェリ君のお陰だよ!」
「そうなの?でも俺、別に何にもしてないよ?」
「フェリ君が背中を押してくれなかったら、僕、スーさんのところに行くとか出来なかったもの。だから…、ありがとね」
「ふーん?まぁ、俺はティノが幸せそうで嬉しいから、いいや〜♪」
ニコニコと笑い合えば、ひょっこりと…どこからともなく、ギルベルトが顔を出した。

「何だよ何だよお前ら、可愛い〜なぁ〜〜♪けど、そろそろスタートだからよ、あっち集合しろよ」

「あ、はい!」
注意を受け、慌てて背筋を正すティノ。
「あれ〜、ギル兄ちゃんが真面目に仕事してるなんて珍しいねぇ〜!」
そんなティノとは対照的に、いつも通りの調子でそう言ったフェリシアーノに、
「ば、ばっか!俺様はやる時ゃやる男なんだっつーの!」
ギルベルトは唇を尖らせて…、それからチラリと来賓席の方を見やった。
踏破試験には、教職員の他にパール生の内、トリアスの3名も同行する。
フェリシアーノとロヴィーノの『お兄様』であるギルベルトは、普段はどちらかというとふざけた感の言動が多いのだが、これでもトリアスの一員なのだ。
(ちなみに、トリアスのナンバー1はエリザベータ、ナンバー2はトーリス、ナンバー3がギルベルト)

「あ、そっかぁ、ルートが来てるから、張り切ってるんだね〜★」

わかった!なんて言うフェリシアーノに、ギルベルトは少しだけ決まり悪そうな顔をすると、「まぁな」と呟いた。
来賓席にいるドイツ王・ルートヴィッヒは、ギルベルトの弟だったりする。
「…アイツ、心配性だからな。俺様はちゃんとやってるってトコ見せねーと…」
「そっかぁ〜」
「ん〜…、まあ、そんなとこだ!だから、早く並んでおとなしくしてろよな!」
「わかった〜」
コクリと頷くフェリシアーノに、よし!と言うと、ギルベルトはルートヴィッヒに向かって『見たか?俺様、ちゃんとやってるぜ!』とばかり、会心の笑みを向けた。
その様子を、何だか微笑ましく思っていれば、
「ティノ、兄ちゃんのことよろしくね〜」
集合場所へと歩きながら、フェリシアーノがふいにそう言ってくる。
「あ、うん…、でも、僕の方が迷惑かけちゃうかもだけどね…」
えへへ…なんて笑いながら…。

そっか…、何か浮かれちゃってスッカリ忘れてたけど、これから踏破試験なんだよね。
毎年リタイアする人がいっぱい出るって言うけど…大丈夫かな……って、ううん!
弱気になっちゃダメだよね!
気を引き締めて、頑張って、スーさんにいいところを見せなくっちゃ!

「よぉし、頑張るぞ〜!」
呟けば、フェリシアーノもニッコリ笑って、うんと頷いた。



+   +   +   +   +


てことで、踏破試験がやっと始まりました!
ベールさんの部屋にお邪魔したティノ、あの後は特に何もなかったようです。
「あんま遅くなっど、試験に差し支えっがら…」とか、ほどほどの時間で帰された模様。

ちなみに、踏破試験について簡単にまとめますと…↓


・イギリス領某島を舞台に、スタートから100kmを踏破する。
(この100kmは直線距離)
・2人一組のペアで、野外での一泊がある。
・ローブは使用不可。
・装備の中に食料は入っていないので、自前で確保する。
(森の中には食料となる動植物は豊富。但し、小動物がいるという事は、それを補食する肉食獣もいると言う事)
・夕食は採点される。


…こんなトコかな。。。
 
ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2010/11/11
※続いてます。




踏破試験は文字通り、100キロの距離を踏破する試験だが、その距離はあくまでも直線の場合なわけで…。

ローブの使用は許可されていない為、生徒達は山あり谷ありの島の中を、歩いて踏破しなければならない。
ゴールまでのルートは大きく2つに分けられ、中央を選べば山越え、海側を選べばアップダウンの厳しい崖が待っている。
舞台となる島は変われど、過酷なことに変わりはなく、毎年多くの脱落者を出す魔の試験だ。


そんな試験がスタートし、既に数時間……。


ティノとロヴィーノは、海沿いの道をえっちらおっちら歩いていた。

「…ごめんね、僕…足引っ張っちゃってるね…」
ロヴィーノが自分に合わせてゆっくり歩いてくれているのに気付くと、ティノは申し訳なさそうに謝った。
「あ?別に…んなことねーよ。そ、それに、後の事はみんなお前に任せるつもりだからな…!」
照れ隠しなのか、唇を尖らせてボソボソと言うロヴィーノ。
スタートからずっと不機嫌そうな顔をしているロヴィーノだが、特に機嫌が悪いわけではないようだ。
「うん、分かった!僕、頑張るね!」
ティノはにっこり笑って頷くと、よいしょと大きな岩をよじ登った。
段々と厳しさを増す崖道に、息が上がる。
流れる汗を拭いながら、ティノはぼんやりとロヴィーノの背中を見つめた。

フランシスさんに、恋するオトメ同士……って…言われたけど…。
ロヴィーノ君も…あのスペインの王様のこと…好きなのかな…?
あ、もしかして…、好きとか…恋とか……まだ認められてなくて……、それでイライラしてる…とか?

そんな風に思えば、まさにそう!としか思えなくなって…。

僕も…認めるの…結構時間かかったもんな……。
スーさんの事…好きなんだって……。

ベールヴァルドを思えば、それだけで胸がドキドキして…ティノは足元に目を落とす。

昨日はホント、すごくビックリしたけど…、嬉しかったなぁ…。
本当はもっともっといっぱい話したい事あるけど…、贅沢言ったらダメだよね。
スーさん…明日まで居られるのかなぁ……。
うう、頑張っていい成績取りたいな〜。
そしたら、スーさん…喜んでくれたりするかな……?
誉めてくれたり……?
やっぱり俺のオトメだ…な〜んて言われたら、どうしよ〜〜?!?!

「おい、どうしたんだよ?疲れたのか?」
ロヴィーノにそう声を掛けられて、ティノは自分の足が止まっていたことに気付いた。

「え?あっ、ううん、ごめんね!」
慌てて駆け寄れば、ロヴィーノがジイッと見つめている。
「お前、顔赤くねぇ?」
「…だ、大丈夫!」
「具合悪ぃんなら言えよ。俺は別にリタイアしたっていーんだからな」
「だっ、ダメだよっっっ!」
リタイアなんて!と慌てて言えば、その勢いに驚いたのか、ロヴィーノは目を丸くした。

「ば、ばか、別に今すぐするなんて言ってねーだろ!」
そして、言われた言葉に、今度はティノの方が目を丸くして…「あ☆」と呟く。
「あはは…!そ、そう言えば…!」
「お前…、案外そそっかしいのな…」
もっとしっかりしてるかと思った、なんて。
「よく言われます…」
呆れたように言われて肩を落とせば、ロヴィーノはプッと小さく吹き出した。



※続いてます。

+   +   +   +   +


フィンとロマのコンビって可愛い気がします♪
何か、ほんわかしそう(´∀`*)
さあ、次は王サマコンビだ!

 
ウレシハズカシ☆踏破試験 >
Update : 2010/11/11
※続いてます。



さて、そんな二人から数メートル程離れた茂みの中…。
双眼鏡を手に身を潜め、ガサガサゴソゴソと移動しながら…。

「は〜…、ロヴィーノ、めっちゃかわええな〜♪もう一人の子もかわええしな〜♪何やのも〜この幸せな眺め!天国やんな〜〜♪♪」

はにゃーんとぽにょーんと、悪戯書きみたいな花を周囲に撒き散らし、世にもお幸せな顔で、スペイン国王アントーニョは本日何百回目かのセリフをまた呟いた。
すると、

「ん」

その横から重々しい頷きが返る。
そこには、殺気としか思えない程、恐ろしく禍々しく、重〜い空気を纏ったベールヴァルドの姿があって…。
「……なあ、あんた何で付いてくるん?」
普通の感覚を持つ人間なら、怖くて堪らないであろうその空気をモノともせず、アントーニョはただ不思議そうに尋ねた。
途端、ギロリと…空色の瞳が凄みを増してアントーニョを捕らえる。
「…めんげぇ」
「……」
ポツリと言われた言葉を、一瞬考えて…。
「ああ、ロヴィーノな!そーやろそーやろ!」
アントーニョはあっけらかんと笑った。
ふるると無表情のまま振られる顔。
「そっちでねぐて」
「へ…?え?じゃあ、俺?」
「違ぇ」
再び振られる顔。
「じゃあ……あっ!あーーーっ!もう一人のっ!!!」
「ん、ティノだ」
「そうそう!ティノちゃん!へ〜っ、アンタ、そうなん?なんや〜、アンタいっつも怖そうな顔ばっかしとっけど、なんやなんや〜、そうなんや〜?うわー、俺ら、なんや気ぃ合いそうやーん♪」
わははと笑って、バシバシと背中を叩くアントーニョに、ベールヴァルドは怒ることなく頷いた。
「これから仲良うしようや〜♪」
「ん、よろしぐ」
ひょんな事から意気投合する二国の王様達…。
だが、二人がそんな会話で目を離した、そのちょっとの間に…。

ギャオーーンと、何処をどう聞いても穏やかでない獣の咆哮が聞こえて…。

続けてガラガラと崩れる大地の音。

「うわぁーーーっっ!!!」
「おひゃ〜〜〜っっ?!?!?!」

更には、ロヴィーノとティノの悲鳴までが響いて…。
「何や?!?!」
「!!!」
見れば、どう見ても肉食にしか見えない大型獣と、崩れた崖が目に入った。



+   +   +   +   +


てことで、4,5,6とまとめてアプしました。
いつも、更新が間開きすぎで…特にこのシリーズは、続いてるの?書く気あるの?的開き方で、読んで下さってる方には本当に申し訳ないです;;;(爆)

この続き、あといくつかありそうですが…その前に、ロヴィーノ話をアプする予定です。
12月に入るまでが勝負なんで、頑張らないと!(自分的に)