+ はじまりのものがたり +

page; 4 / 4


傾向; 典芬


「決めました」

泣いて、泣いて…ひたすら泣いて、それから長い間、ただぼんやりとして…。
やがて、やっと落ち着いたのか、ティノはスッキリとした声でそう呟いた。
「ん?」
何?と尋ねるベールヴァルド。
もう長いこと、彼に預けていた身を起こし、ティノはじいっとその空色の瞳を見上げる。
この無口な王子様は、ティノが泣いている間、ずっと…ただ側にいてくれたのだ。
その優しさが、ありがたくて、嬉しかった。
顔はちょっと怖いけど、いい人だと、ティノはこっそり思う。

「僕、オトメになります!」

「……」
その言葉はベールヴァルドにはとても意外なものだったから、言葉もなく見つめていれば、
「立派なオトメになって、お姉ちゃんの汚名を返上してみせます!」
ティノはそう言って、ニッと決意に満ちた笑みを浮かべた。
オトメが女性限定の職業だった時代は過ぎ去って久しい。
現代では、男性の『オトメ』だって、随分一般的になっては来ているが…。
それでも、やはり…オトメにはイメージ通りの可憐な少女をと望む者は多い。
だから、決意はどうあれ『言うは易く、行うは難し』であろうが……。
「…ん、そっが…」
「ええ、頑張りますよ!僕、絶対、凄いオトメになりますから!」
ぎゅっと拳を握り締め、ガッツポーズをしてみせるティノに、ベールヴァルドはウンと頷いて。


「ほだら、おめ、俺のオトメさなれ」

何とも自然にサラリとそう、言ってのけた。
「!」
兄王子が亡くなった今、ベールヴァルドはこの国の第一王位継承者だ。
近い将来、国王になるだろう。
そう、それは、ティノがオトメになるよりも、ずっとずっと確実に。
「い…、いいんですか?」
大きな目を更に大きくして、ティノが尋ねる。
「ん、約束な、ティノ」
シッカリと頷き、小指を差し出すベールヴァルド。
「あ…、あの、僕のこと、フィンって呼んで下さい」
自分もまた小指を出しかけ、ふと思いついてティノはそう言った。
「?」
ベールヴァルドが不思議そうな顔をするのに、ティノは照れ臭そうに、それでいて寂しそうに微笑む。
「もう…、呼んでくれる人がいなくなっちゃった名前なんですけど……」
恐らく、姉が呼んでいた愛称なのだろうと察して、ベールヴァルドは小さく頷いた。
「んだら、フィン、約束な」
「はい!」
ティノはニッコリと笑って、小指を絡める。

ゆびきり、げんまん。
そう、リズミカルに振られた手を見つめて…。

きっときっといつか、スーさんのマイスターオトメになって…、きっときっと、何があっても、スーさんを守り抜いてみせる…!

「僕、頑張りますね!」
ティノが決意を固めてそう言えば、ベールヴァルドは少し嬉しそうな様子で、ウンと頷いたのだった。


+   +   +   +   +


とゆことで。
約束を交わす在りし日の二人なお話しなど☆
スーさんの心はもうすっかりフィンに奪われてますね(え)

スーさんとフィンに、勝手にお兄ちゃんとかお姉ちゃんとか作ってますが、まあ、まあ、まあ……(何がまあまあだ)
ちなみに、フィンのお姉ちゃんの名前にしたレナってのは、マイオトメの主人公アリカちゃんのお母さんの名前であります。
(すごいマイスターオトメだったのですが、引退してオトメの力を無くした直後に仕えてた城が襲われ、お亡くなりに……)


それにつけても、秘密の花園的お庭が好きだな、あたし……(^^;
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<< 前のページへ 




 ■ リストに戻る   ■ TOPへ戻る