+ アイルーキッチンで朝食を★ Episode;00−1 +

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傾向; 典芬




「よし、と…。今日のは美味しいといいな……」

自分の身の丈程もあるシチューの大鍋をかき混ぜて、フィンランドはフーッと溜息混じりに呟いた。
今日のメニューはふたごキノコのシチューに堅肉ステーキ・北風みかんソースで、デザートにはオイルレーズンを用意した。
今日一日じっくりゆっくり煮込んだシチューは、香りもよく、とても美味しそうに見える。
だが、人の味覚とアイルーの味覚は少しばかり違うらしいから…。
だから、フィンランドが「これでよし」と思っても、スウェーデンにとっては倒れるくらい不味いなんて事があるのだ。

こないだのフラヒヤ麦と骨タコは最悪だったもんね……。
スーさん、真っ青になってバタって倒れちゃうんだもん…。
あの時はホント、クビを覚悟したよ……。

つい先日の夕食を思い出せば、深々と溜め息が漏れた。
「これ…ホントに平気かなぁ……」
端で聞いている人がいれば、まず食べるのを躊躇しそうな呟きを漏らし、フィンランドはバスルームの方へ視線をやった。
何を作っても「美味ぇ」と言って完食してくれるスウェーデンは、倒れるほど不味かったあの時の料理ですら、皿に盛った物を何一つ残すことなく平らげたのだ。

不味かったら残してくれればいいのに………。
どうして倒れるまで食べるんだろう…。

「なじょした?浮かねぇ顔しで…」
「あ、スーさん…!」
考え込んでいれば、いつの間にやらバスルームを出てきたスウェーデンが顔を覗き込んで…。
「あ、いえ、何でも!」
汗や埃やモンスターの血を洗い流し、スッキリサッパリした感じの彼は、帰ってきた時より、幾分穏やかな顔をしているように見える。
「いい匂いだなぃ」
「そうですか?今日はいいキノコが入ったんですよ♪今、運びますから席についてて下さい」
「ん」
フィンランドの言葉に頷くと、スウェーデンは言われた通りテーブルへと向かった。
その後を追うようにして、フィンランドは作った食事を運ぶ。
スウェーデンに限らず、ハンターの食事量は相当な物だ。
だから、フィンランドはキッチンとテーブルの間を何度も往復し、大量の食事を運ばなければならない。
「スーさん、お待たせしました。ええと…、どうぞ」
沢山の料理を全て運んでそう言えば、スウェーデンはまず、ふたごキノコのシチューを口に運んだ。
「ん、美味ぇ」
「本当ですか?」
スウェーデンの『美味ぇ』は余りアテにはならない。
だから、フィンランドはその顔を怖ず怖ずと見上げて、様子を窺った。
その顔色は、特に青くなったり赤くなったりはしていないようだ。
「ん、本当に美味ぇぞ」
「良かった」
スウェーデンがそう言いながら、手を止めることなく食事を片付けて行くのを見て、ようやくホッとすると、フィンランドは顔を綻ばせる。
「マグロとお肉、どうやって食べたいですか?よろず焼きにして明日のお弁当にします?」
「ん?ほんでは土産になんねぇべ?」
シチューを掬っていた手を止め、眉を顰めるスウェーデン。
「えっと…、でも、僕はスーさんに食べて欲しいです。お土産は気持ちだけで十分ですから」
フィンランドはニッコリ微笑んだ。
「……他のもんがえがった?」
「え?いえ、そういうワケじゃないです!どっちも大好きですよ!」
「んだら、せめてどっちかはおめが食え」
そうでなければ気が済まないと、そう言っている瞳の強さに、フィンランドは苦笑するしかなくて。
「じゃあ、お魚の方を頂きますね」
そう言えばようやくウンと頷いて、スウェーデンは食事を再開した。


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