+ 森の中の出会い +

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傾向; 典芬



スウェーデンがこの森に入りたいと言った時、船長であるデンマークは勿論反対した。

この森がゲルマン国の軍に守られている事は広く知られていたし、何しろ、様々な噂があって、魔女に呪われるとか、魔女の飼う魔物に食べられるとか…そう、その噂はどれもこれもよろしくない物ばかりで…。
危険に見合う財宝などはなく、ただ骨折り損になるだけだと、海賊達の間でも囁かれていたから…。
けれど、不思議な力を持つノルウェーが、何を知っているのか、
「スヴェーリエは行かねぇとなんね」
そう言って、森まで風の精霊に送り届けさせてくれたから、スウェーデンはさしたる苦労をする事もなく、森の中へと降り立つ事が出来たのである。


そんなわけで、深い深い森の中…。


何処へ行けばよいと知っているわけではない。
どちらへ行くと決めていたわけでもない。
地図なんて便利な物もない。
だから、足の向くまま気の向くままに、スウェーデンは森の中を進んでいった。
外側には多く見かけた兵士達も、中の方には居ないようで、特に見咎められる事もなく…。

本当、何を守ってんだべな……。
ノルウェーだら、何か分かんのかもしんねぇげっちょ…。

目を凝らして探すまでもなく、この森には妖精達が多く棲んでいる。
精霊使いのノルウェーならば、きっと彼等から話を聞く事が出来るだろう。
そう思うと、姿は見えても声を聞く事は出来ない自分が歯痒くて…。
それでも…。

何となくだけんぢょ……こっち…だべか……。

何かに呼ばれているような気がするのだ。
そして、進む毎に胸のざわめきが大きくなるのを感じて…。

この先に何かが居る。
この先に何かが待っている。

そう期待に胸を膨らませ、スウェーデンが茂みをかき分けた時…、何処からか犬の鳴き声が聞こえた。
キャンキャン、と。
「ん?」
ふっと…顔に差す影…。
スウェーデンが上へと視線を向ければ、何か白くて小さな物が落ちてくるのが見えて…。
咄嗟に受け止めようと手を出した時、その上から、更にもう一つ…。
今度はやや大きめの白い物が落ちてくるのが目に入った。
「っ!」
それがもし一瞬でも遅ければ、きっと受け止められなかっただろう。
だが、スウェーデンは一瞬で、その大きな物も受け止める覚悟を決めたから…。
身体はきちんとその指令に応え、大小二つの白い物をしっかりと受け止める事が出来た。

どっすーーーーん☆と、衝撃が身体を走り抜けて地面へと広がり、やがて吸収される。

「………さすけね?」
受け止めた物の片方が人であると気付いたから、スウェーデンは一呼吸置くと、そう尋ねた。
「だ…、だ、だ、だいじょー……おひゃあああああっっっ?!」
驚きに固まっていたその人は、顔を上げるや否や盛大な悲鳴を上げる。

あんれ、よっぽど怖かったんだべなぃ…。
まあ、あんな高ぇとこから落っこちだら、仕方ねぇげっちょも…。

悲鳴は落下の恐怖のせいと決め、スウェーデンがチラリと上へ視線を向ければ…。
腕の中で、もう一つの白い物がキャンキャンと声を上げた。
どうやら、最初の小さな塊は、白くてふわふわな子犬だったらしい。
「あ…っ、す、すみません!悲鳴なんか上げちゃって…、あの、その…、あ、ありがとうございました…」
子犬の声にハッとして、腕の中の白い人物がアワアワと礼を言う。
「ん、ケガしてね?足滑ったのか?」
「はい、大丈夫です!花たまごが…って、あ、この子の名前なんですけど、急に飛び降りちゃって……。僕、ビックリして、つい追いかけちゃったんですよ〜」
「そか」
「あっ!あの、僕ってホントにドジで…、すみません………」
スウェーデンが頷くと、何故か花たまごの飼い主はしょぼんとうなだれて謝った。
スウェーデンの短い頷きに、彼が怒っていると勘違いでもしたのかもしれない。

いげね…、怖がらせちまったべか…?
んっど、何か言いっちぃけんぢょ…何さ言っだらえぇんだか…。

「あぁ…」
無口で無愛想で大柄な自分が、人に与える印象はかなり怖い物であると、普段周りにいる仲間達から注意されていたから、スウェーデンはややオロオロとして。
だが、彼が何かを言う前に、
「あ、あのっ!僕、フィンランドって言います。貴方の…お名前は…?」
フィンランドと名乗ったその人が、名を尋ねてきた。
「ん、俺ぁ、スウェーデンだ」
「スウェーデンさん…」
スウェーデンが名乗れば、フィンランドはホッとしたようにニコッと笑顔を見せる。

めんげぇ……。
何もしねぇでもめんげぇけんぢょ、笑うと…もっとめんげぇなぃ…。

ぽわっと…、花が綻ぶようなその笑顔に、スウェーデンの心もぽわわんと花咲いて…。

成る程、どうやら自分が探していたのはフィンランドだったらしいと思う。
「あの、スウェーデンさん!お礼がしたいので…、よろしければ、僕のお家にいらっしゃいませんか?」
スウェーデンがついつい見とれていれば、フィンランドはそう言って、森の先を指し示した。


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