+ スーさんのオトメ☆ +

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傾向; 典芬


じいい、じいいと。
側にいればいつでも、突き刺さるように感じるベールヴァルドの視線。
昔からのことだが、いい加減飽きたりしないのだろうか…。
一度聞いてみたい気もするが、答えが何だか怖い気もする。
それに、とティノは内心一人ごちた。

段々…、慣れて来ちゃったんだよね……。
そりゃ、オトメになってから、四六時中一緒にいるんだもん。
慣れなきゃって感じだけど…。
それより……。

「ねえ、スーさん…?」
「ん?」
「僕に出来ること…何かないですか?」
思い切って尋ねてみれば、ベールヴァルドは不思議そうに首を傾げた。
「なして?」
「だって僕、毎日、殆ど何もしてなくて…。このままでいいのかな、って…」
「そ?」
「そーですよ!僕は貴方のオトメで、お客様じゃないんですから!何か仕事を…」
「…おめは…おめにしか出来ねごとしてんでねぇの」
ティノの言葉を遮り、ベールヴァルドは事も無げに言う。
「それは…、戦争の…抑止力になってるって意味ですか?」
「ん」
コクリと頷くベールヴァルドに、ティノはきゅっと唇を噛み締めた。
それは、確かにそうだろう。
オトメは超強力な兵器みたいなものだ。
各国がオトメを持っているからこそ、そしてそのオトメが国王と命を共にしているからこそ、戦争が起こるのを防ぐことが出来ているのだ。
だが、それはマイスターオトメならば、誰もが同じ…。
ティノが聞いているのは、もっと自分だけに出来るような…、それでベールヴァルドの役に立つようなことなのだが……。

何か、もっとちゃんと、スーさんに必要って思われる事がしたいんだけどな…。
このままじゃ、もう要らないって思われそうだもん…。
スーさんがそう思わなくても、大臣さん達とかにさ……。

折角、夢を叶えてベールヴァルドのオトメになったのに、何も出来ないままクビになったりしたら…と思えば、どうしても不安で憂鬱で…。
「浮かね顔しでっごと…」
「あ…スミマセン、ちょっといろいろ…考えちゃって……」
あははと誤魔化すように笑うティノを、ベールヴァルドは暫くの間黙って見つめて…。
「……そだに…焦んねでも…」
ポツリとそう言った。
「え?」
それは小さな呟きだったから、ティノの耳には届かなかったのだろう。
紫水晶みたいな瞳が、パチクリと瞬く。
ベールヴァルドは、特に何も答えず、スイと視線を外した。
ティノが悩んでいると思えば、チクリと胸が痛んだ。

側にいると仕事になんねなんて…、いい加減、何とかしねぇとなぃ…。

チラリと見れば、また視線を落として考え込んでいるティノ。
沈んだその表情すら、見れば『めんげぇ…』と思ってしまって…。
ついつい、見とれてしまう。
今の今、いい加減何とかしないと…なんて思った筈なのに…。

オトメの仕事は、何も戦いだけではない。

オトメはあらゆる面に於いてマスターの望みを叶えるべく、様々な教育を受けている。
マスターの相談役となり、政治に関わったり、身の回りの世話をしたり、その役目はマスターの望み次第で様々なのだ。
ティノはガルデローベでトリアスを務めていた位に優秀だったのだから、きっと良い相談相手になるだろう。
それは最初から分かっていた。
だが、ティノが側にいると、ベールヴァルドは仕事に集中出来ないのだ。
情けない話だと思うが、分かっていてもどうにもならないのだから仕方がない。
「…スーさん」
ふいに、ティノが茂みの向こうを見据えて、固い声を出した。
「なじょした?」
「誰か来ます」
成る程、ティノの言葉の通り、誰かがこちらに向かって走ってくるような音が、段々と近付いてくる。
そして、

「陛下!東庭園にスレイブが現れましたっ!」

ガサリと、茂みを割って駆け出してきたのは一人の兵士で、彼はゼイゼイと肩で息を付くと、その場に片膝を付いた。

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