+ アイルーキッチンで朝食を★ Episode;00−1 +

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傾向; 典芬


「他の子…雇った方がいいなんて、言わなきゃ良かった……」
ジワジワと滲んだ涙が、ポロポロとこぼれる。
「僕ってほんと、バカだ……」
今更気が付いたのだ。

スウェーデンと二人だけの生活が、どれ程幸せだったのか…。
彼を独り占め出来る生活が、どんなに贅沢であったのか…。

それでも、デンとノルが来た時は、そこまで脅威を感じたりはしなかった。
デンとノルは、最初から互いの事しか見ておらず、スウェーデンを取られてしまうかもなんて危惧は、殆ど感じることがなかったし、それに、彼らはオトモアイルーで、キッチンアイルーはフィンランドだけだったから…。
役割が違ったから、まだ安心出来たのだ。
だが、エストニアは同じキッチンアイルーだ。

それも、フィンランドよりずっと優秀な………。

「………っ」
フィンランドは服の袖で涙を拭うと、すっくと立ち上がった。

頼んでみよう…。
スーさん優しいから、頼んだら聞いてくれるかもだもん。
クビにしないで下さいって、ここに置いて下さいって、お願いしてみよう…!
それで、明日から本当に精一杯頑張ろう…!

そう決心を固めると、フィンランドはベッドを飛び出した。
他のアイルー達を起こさないように、静かに階段を駆け下り、食堂を横切る。
そして、ソロリと部屋を覗けば、スウェーデンはまだ起きていて、ベッドで本を読んでいるところだった。
「……!」
以前はよく目にした彼のそんな姿に、何だかまた涙が滲んでくる。
最後にここで一緒に寝たのは、もうふた月近くも前なのに、何一つ変わっていない事が不思議で、嬉しいようで、悲しいようで…。

「スーさん…」

そっと室内に入り、怖ず怖ずと呼び掛ければ、スウェーデンは顔を上げ、驚いたようにフィンランドを見た。
「フィン、おめ…なじょした?」
「……僕、あの…」
「怖ぇ夢でも見だのが?そっだとこいだら寒ぃべ?ほれ、こっちゃこせ」
おいでと手招きされるが、フィンランドはスウェーデンを見上げたまま、その場を動けずに…。
けれど、
「フィン?」
スウェーデンが小首を傾げるのに、グッと覚悟を決める。

「………あ…あのっ、あの…っ、僕を、クビにしないで下さいっっ!」

力一杯精一杯、叫ぶようにそう言えば、スウェーデンは驚いたように軽く目を見張って、パチクリと瞬きをした。
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