+ ロヴィーノの憂鬱 +
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傾向; 典芬・米英・西ロマ
「なーなー、ロヴィーノ〜、ロヴィーノちゃ〜ん、ロヴィーノ・ヴァルガスちゃんってば〜」
足早に歩くロヴィーノを、脳天気なアントーニョの声が追いかける。
「うっせえ!勝手に人の名前連呼してんな!殺すぞコノヤロー!」
「ちぃっとくらい話聞いてくれてもええやんか〜、なあなあ♪」
「やだ。聞かねー。っつーか、付いてくんなよ!マジで変質者だって警察突き出すぞ!」
思いっきり睨み、素っ気なく酷いことも言ってみるのだが、アントーニョが気にする様子はなく…、脳天気で幸せそうな笑顔のまま…。
「いけずやなぁ〜、でもそこがまたかわええねんけど♪」
「気色悪ぃー事言うなって言ってんだろ!バーカ!」
バーカバーカと子供のように言うロヴィーノ。
その腕が、ふいにガシッと掴まれて…。
「何だよっ!」
驚いて振り向けば、そのままグイッと強く引かれた。
痛いほど強く…バランスを崩すほど…強く……。
「うわっ?!」
倒れ込んだ先はアントーニョの腕の中で…、フワリと感じた体温と、鼻腔を擽るスパイシーで甘い香りに、一瞬、頭が真っ白になる。
な、何…、何…だ…?
何だこれ…何で……?
「なあ、ロヴィーノ、俺のオトメにならん?」
笑み混じりの優しい声が、耳元でそう囁いた。
耳を疑いたくなるようなその言葉…。
オトメ…?
俺が…、いや、俺を…オトメ…に……?
誰の…?コイツの……?
でも、だって…コイツって………。
唖然としてアントーニョを見つめたまま、パクパクと口を開閉して。
「な…に…、お前…」
やっとの事で絞り出した声は、喉に張り付いたみたいに掠れていた。
「どや?」
ニコッと太陽みたいに明るく笑うアントーニョ。
「ば…、バッカじゃねーの?!そんなの…、信じる程ガキじゃねーっつーの!」
「あれま、ウソや思うてるん?傷つくわぁ〜」
「!」
戯けて言った途端、バチンと頬を叩かれた。
驚きにパチクリと瞬きをして、アントーニョは俯いているロヴィーノを見つめた。
ぎゅうっと唇を噛み締めているロヴィーノは、何やらとても辛そうで、悲しそうで…。
「ロヴィーノ…?どしたん?」
「お、俺、知ってるんだぞ…!お前、スペイン国王なんだろ?そんな大国のトップが…、何で…俺みてーなのなんか………!信じれるわけ、ねーだろっ!」
ロヴィーノの言葉に、アントーニョが「ん〜…」と呻る。
「どうせ…、からかってるだけのクセして!分かってんだからな、チクショー…」
今にも泣きそうな顔で、むううっと自分を睨んでいるロヴィーノ。
アントーニョは少し首を傾げ、今までとは何処か違う柔らかな笑みを浮かべて彼を真っ直ぐに見つめた。
「なあ、ずっと一緒にいたいって…思ったら…あかんかな?」
「は…?」
その言葉に、ドキリと鼓動が跳ねる。
それは、オトメにならないかと言われた時よりも、ずっと大きく…。
「俺は、ロヴィーノとずっと一緒におれたらええなぁって思うとるよ」
「な、なな、何…言って…!」
「せやから別に、オトメやのーてもええねんで?うん、ロヴィーノなら、俺は何でもええ!」
ニカッと、また太陽みたいな、青空みたいな、子供みたいな笑顔。
キラキラしたライトグリーンの瞳は見つめていれば、吸い込まれる様な感覚を覚えて…。
ロヴィーノは慌てて顔を逸らした。
「なんだよ、それ………」
「だって、ロヴィーノかわええやんか♪」
「…は?」
「ロヴィーノがずーっと一緒居てくれたら、俺めっちゃ幸せやと思うしな〜♪毎日楽園みたいやんな〜♪せやから〜〜、なあなあ、どない?」
なあなあ?と聞いてくる顔は、ムカツク程の脳天気さ。
ロヴィーノはアントーニョの頭をぽかっと殴ると、そのまま駆け出した。
「…ばっ、ばぁーーーっっかっっ!お前の幸せなんか知るかっ!さっさと国に帰っちまえ!チクショー!」
数メートル先で振り返り、そう叫んで…また駆け出す。
今度はもう脇目も振らずまっしぐらに……。
「あーらら、見事にフラれちゃったねぇ〜?」
そう言って、ニヨニヨ笑いながら近付いたのはフランシス…。
彼は近くでずっと二人の成り行きを見ていたのだ。
「だからいつも言ってるだろ?…って…お前……」
全く…なんて、諭す様に語り出そうとしたフランシスだったが、アントーニョの肩が僅かに震えているのに気付くと、少しだけ表情を改めて、軽くポンッとその背中を叩いた。
「ま、まあ何だ。ほら、アイツまだガキだしさ…、ビビッちまってんだよ、な?」
「……ロヴィーノ…」
「おいおい、泣くなよ〜?お前もう王様だろ〜…って……」
「ほんっっっま、怒ってもかわええよなぁ〜〜〜〜♪♪♪」
振り返ったアントーニョは、全然、全く、これっぽっちも、泣いてなんかいない。
ぽわぁ〜んと…舞飛ぶ花やハートや星なんかが目に見える位、お幸せな顔で…。
「………いや、お前ちょっとくらい懲りろよ…。そんでもう国帰って、ホント…」
フランシスの世にも哀れな声が、夜の公園に響いたのだった。
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